授賞式レポート

聞いたことある?「生物多様性」ってなんだろう?

「生物多様性」ってなんでしょう? 言葉だけを見るとちょっと難しいイメージがあるかもしれません。実はこんなことも「生物多様性」につながっています。地元でとれたものを食べて旬のものを味わうこと。動物園や植物園で自然や生きものとふれあうこと。海や山での自然体験をすること。季節の移ろいや美しい自然を写真・絵・文章で伝えること。地域に残る人や文化の「つながり」を守ること。エコマークの付いた環境に優しい商品を選んで買うこと。暮らしの中で簡単にできることがたくさんあります。

生物多様性アクション大賞は、「たべよう」「ふれよう」「つたえよう」「まもろう」「えらぼう」という暮らしに根ざした身近な5つのアクションを切り口として全国各地で行われている生物多様性の保全や持続可能な利用につながる活動を募り表彰するアワードです。

「生物多様性」の主流化を目指して、「国連生物多様性の10年 日本委員会」が推進する「MY行動宣言 5つのアクション」に基づき、全国各地で行われている個人や団体の活動から「たべよう部門」、「ふれよう部門」、「つたえよう部門」、「まもろう部門」、「えらぼう部門」の5部門で優秀賞を選定します。さらに授賞式当日、優秀賞受賞者によるプレゼンテーションによって、「大賞」が選定されます。

生物多様性アクション大賞2014 いよいよ授賞式スタート!

授賞式会場となった在日韓国YMCAアジア青少年センターには、北は東北から南は沖縄まで日本各地から受賞者の皆様が集まりました。

たべよう部門優秀賞『日和キッチン』(宮城県石巻市)
ふれよう部門優秀賞『石垣市立伊原間中学校』(沖縄県石垣市)
つたえよう部門優秀賞『渋川いきものがたり作成支援委員会』(滋賀県草津市)
まもろう部門優秀賞『まるやま組』(石川県輪島市)
えらぼう部門優秀賞『NPO法人河北潟湖沼研究所』(石川県河北郡)
復興支援賞『臼澤鹿子踊保存会』(岩手県大槌町)
グリーンウェイブ賞『NPO法人子どもの森づくり推進ネットワーク』(東京都)
セブン-イレブン記念財団賞『特定非営利活動法人大山千枚田保存会』(千葉県鴨川市)


たべよう部門優秀賞
『日和キッチン』


ふれよう部門優秀賞
『石垣市立伊原間中学校』


つたえよう部門優秀賞
『渋川生きものがたり作成支援委員会』


まもろう部門優秀賞
『まるやま組』


えらぼう部門優秀賞
『NPO法人河北潟湖沼研究所』


復興支援賞
『臼澤鹿子踊保存会』


グリーンウェイブ賞
『NPO法人
子どもの森づくり推進ネットワーク』


セブン-イレブン記念財団賞
『特定非営利活動法人大山千枚田保存会』

審査委員賞(写真右から) 『青森県立名久井農業高等学校 草花班』(青森県南部町)/『海と空の約束プロジェクト』(兵庫県明石市)/『カシニワ・フェスタ実行委員会』(千葉県柏市)/『認定NPO法人自然再生センター』(島根県松江市)/『地球環境関西フォーラム』(大阪府大阪市)/『東芝グループ』(東京都)

全ての表彰が終わり、筑波大学教授、吉田正人審査委員長の総評で締めくくられました。

受賞者集まれ!白熱のプレゼンテーションタイム!!

プレゼンテーションは3枚のスライドで活動を語る3ピーストークという手法で行います。まずはじめに特別賞から見ていきましょう。

◯復興支援賞

臼澤鹿子踊保存会「岩手県被災地での『神の森』ドロノキ植樹プロジェクト」

鹿子踊りは400年前に房州から伝わったとされる勇壮な郷土芸能です。背中についているカンナガラという白いたてがみ状のものが特徴で神霊界と人間界をつなぐ神聖なものと言い伝えられています。カンナガラは樹齢50年を越えたドロノキという広葉樹を薄く鉋で引いたものです。ドロノキは近隣に自生するものを切り出していましたが、自生の分布は貴重で将来は枯渇することが予想されたため、昭和の後半から植樹活動が始まりましたが、失敗し頓挫していました。東日本大震災後に訪れたボランティアの方の後押しもあり植樹プロジェクトがスタート。その中で、20年ほど前から大規模植林に成功していた長野県上田市との交流が実現し、種の採取、育苗、植林にいたる具体的なノウハウを教えていただき、昨年から苗木の育成に取組みました。数千本の苗木を1年間で80cmまで育てることに成功し、本格的な植林事業を開始。伝統郷土芸能のさらなる発展に向けて大きな一歩を踏み出すことができました。

◯グリーンウェイブ賞

NPO法人子どもの森づくり推進ネットワーク「JP子どもの森づくり運動『東北復興グリーンウェイブ』」

全国の幼稚園保育園に通う子どもたちが取り組む東日本大震災の緑の復興支援活動です。NPO法人子どもの森づくり推進ネットワークと日本郵政の恊働でその運営のサポートをしています。活動は3年間にわたります。1年目、東北の幼稚園・保育園の子どもたちが拾った“どんぐり”を全国の幼稚園・保育園に届け、2年目、全国の園児たちが苗木に育て、3年目、東北に送り返して被災地に植える活動です。活動目的は3つ。①被災地の子どもたちと全国の子どもたちがどんぐりを育てる活動を通じて互いに相手のことを思いやり絆でつながること。②東北の森の生物多様性的緑の再生活動に寄与すること。③子どもたちの活動とグリーンウェイブを世界の子どもたちの環境活動につなげること。環境の心は共生の心から醸し出されると思います。被災地は共生の心に溢れています。子どもたちのより良き未来のため復興支援活動を通じて被災地から共生の心を学び、全国の子どもたちの心に植え付けるためにこの活動を継続していきたいと思っています。全国58園、約3,000名の園児が参加しています。

◯セブン-イレブン記念財団賞

特定非営利活動法人大山千枚田保存会「みんなで頑張る。棚田の生物多様性の普及啓発活動」

千葉県鴨川市には広大な棚田の風景が広がっています。15年ほど前から活動していますが、棚田のオーナー制度を続けています。棚田1枚1枚を都会の方にオーナーとして借りてもらって、都会の人と農村の人が一緒になって村おこしをしよう、という取組みです。今回は農家さん、子どもたち、棚田オーナーのみなさんと一緒に、田んぼに住む生きものの調査をして地域の資源調査をする中で、生きもの図鑑をつくったので応募しました。生物多様性と田んぼのつながりを普及させていくツールとしてこのような生きもの図鑑をつくり、調査は事務局だけではなく農家さんにも協力していただいて行いました。農家さんが自分の田んぼの生きものについて語れると最高のインタープリターになるのでは? という想いがあったからです。鴨川市にある32集落の農家の皆さんと一緒に調査をして5冊の図鑑にまとめました。今後日本全国にこのような活動を広げていけたらと思っております。

大賞をかけた優秀賞5部門によるプレゼンテーション

さあ、いよいよ各部門優秀賞のプレゼンテーションに移ります。このプレゼンテーションによって最終審査を行い、大賞が決定します。

◯たべよう部門優秀賞

日和キッチン「日和キッチン」

本業は東京で主にリノベーションを扱う建築士です。東日本大震災後、建築に携わるものとして何かできないか、という想いから町づくりのお手伝いで石巻に通うようになりました。現地では「朝ごはんを食べるところがないこと」「石巻で家庭料理を味わいその豊かさに魅せられたこと」「牡鹿半島に住むシカの獣害と、ジビエと鹿肉の美味しさを広めたい思ったこと」これらがきっかけとなって誰もやらないなら自分でやろうという気づきから、鹿肉という食材を通して被災地の経済を動かす活動をしていこうと思い立ち「日和キッチン」というレストランをオープンするに至りました。リノベーションが本業なので大正時代に建てられた築100年の古民家をほとんどDIYでリノベーションをしてお店を開きました。地元の食材を外から来る人にも地域の人にも知ってもらって、レストランという形で経済を動かしていきたいと思っています。

◯ふれよう部門優秀賞

石垣市立伊原間中学校「知ろう伝えよう外来生物のこと」

石垣島は長い年月をかけて多様性の高い独自の生態系が育まれた島ですが、近年生態系のバランスが崩れてきています。その原因のひとつが外来生物問題で、農作物などに被害が出ています。石垣市立伊原間中学校では5年前から特に身近なオオヒキガエルを題材とした環境学習が始まりました。侵略ゲーム、カエルの捕獲、解剖、外来生物会議、小学校への出前授業など5回の授業を通して段階的に学びます。これらの授業を通じて、オオヒキガエルが島の生態系に影響を与えていること、オオヒキガエルそのものが悪いわけではないこと、外来生物の問題が複雑で難しいことがよく理解できました。今まで当たり前に思っていた身のまわりの自然もいつまで続くかわかりません。これからはまわりの環境や生きものを気にかけて生活しようと思います。今後は後輩たちも外来生物について続けて学んでいってもらいたいです。

◯つたえよう部門優秀賞

渋川いきものがたり作成支援委員会「『渋川いきものがたり』〜ふるさとのすばらしさを伝えよう〜」

この絵は渋川村の60年まえの風景を描いたものです。昔は農業が中心で150件ほどの世帯数でした。この写真は今の渋川村。世帯数は4,000件を越え、人口は大幅に増えました。高層住宅が増え、田んぼは姿を消し、急激な都市化と共に人と人のつながりが希薄化してきました。ここで育つ子どもたちに、ふるさと渋川に愛着をもってもらいたいという想いから、渋川小学校の生物多様性に関する学習をサポートする「渋川いきものがたり作成支援委員会」を立ち上げました。「渋川いきものがたり作成支援委員会」は地域住民や行政、研究機関、子ども代表、教員、保護者、など様々なセクターの人材を巻き込んで約80名で組織されています。渋川小学校では全学年で生きもの調査を行います。生きものを通してふるさとの環境を考えることがねらいです。昨年末に学習のまとめとして、子どもと地域住民が協働して畳4枚分にもなる大きな絵図を描き、たくさんの人に自然の素晴らしさを伝えることができました。ESDの近畿地区の代表事例に選ばれています。この取組みは生物多様性の保全に向けた地域恊働型のアクションであり、子どもを中心に据えた持続可能な町づくりです。

◯まもろう部門優秀賞

まるやま組「アエノコト」

本当の豊かさを求めて人が出会い、学び合い、ゆるやかにつながって、やがて「組」になりました。毎月行う、生きもの調査と集落の農耕儀礼「アエノコト」をつなぎます。奥能登には田の神様に収穫の感謝と豊作を願う農耕儀礼があります。各農家で人知れず静かに行われている祭礼です。一方、まるやま組では毎月行うモニタリング調査でわかった田んぼの生物多様性を稲の成長を育てる田の神様と見立てて、少し趣向を変えた「アエノコト」を行っています。農家であるかないかに関わらず、お米を食べている人みんなで食の安心安全を願い、自然に感謝する気持ちを表すものです。生物多様性を日本の自然観の中で読み替え、わたしたちのアエノコトを通してつなぐことで、古来先人たちが自然を畏れ敬い、人は自然の一部として関わってきたことを思い起こさせてくれます。祭のごちそうは1年をかけて準備し、集落のお年寄りから習います。季節を五感で感じ、自然を使いながら守る土地固有の知恵をつなぐ場でもあります。食、農、自然、経済、景観、学び、文化などの垣根を越えて日々の暮らしとつながっています。非農家、消費者、都市生活者、外国人など、今まで日本の生物多様性や里山について直接の当事者でなかった人たちが、ここではあたかもひとつの家族のようにその価値に気づき始めています。

◯えらぼう部門優秀賞

NPO法人河北潟湖沼研究所「生きもの元気米」

生きもの元気米は石川県にある河北潟という湖のまわりで作られています。2年前に河北潟レッドデータブックという本を作りました。調査してみると田んぼにいる生きものが少なくなっていました。考えられる原因は2つ。農薬の空中散布と畦での除草剤使用です。田んぼの生きものを守るために農家と協力してできたのが生きもの元気米。農家はお米をつくる時に農薬の空中散布と畦での除草剤使用をしません。NPO法人河北潟湖沼研究所は田んぼ1枚ごとに生きものを調査して生きもの元気米として認証をします。できたお米をオリジナルの米袋に入れて販売します。パッケージに書かれている田んぼトレーサビリティを見ることで、誰が、どの田んぼで作ったお米なのか、どんな生きものがいる田んぼでできたお米なのか、消費者にまで伝わる仕組みです。調査の結果はホームページに公開されて誰でも見られるようになっています。また、このデータは毎年蓄積され、田んぼに生きものが帰ってくる様子が見て取れます。みんなが元気になる生きもの元気米の取組みを通じて農薬の使用を減らし、生きものが帰ってきて、農家からの参加希望も増えています。

大賞は誰の手に?! ワクワク、ドキドキ、いよいよ大賞の発表です!!

それではいよいよ、大賞の発表です! 大賞は各部門の優秀賞の中から1団体が選ばれます。大賞受賞者には、優秀賞の賞金と合わせて賞金30万円。さらに12月に開催されるエコプロダクツ2014でのプレゼンテーションの栄誉が贈られます。

生物多様性アクション大賞2014、栄えある大賞に輝いたのは・・・
まもろう部門優秀賞『まるやま組』です! おめでとうございます!

まもろう部門

まるやま組「アエノコト」

審査員長からこのようなコメントをいただきました。
「今回大賞に選ばれた『まるやま組』の活動は日本の文化をとても大事にすると同時に、食べるということを通じて、その背後にある生物多様性や自然への感謝の気持ちを伝えるという、私たち日本人が今まさに忘れかけている非常に大切なことを守り伝えている活動というところが評価されました。おめでとうございます」

続いて、受賞者の方からも喜びのコメントをいただきました。
「まさかこんな日本の端の小さな小さな集落で活動しているわたしたちのことを評価いただけるとは、申し込みの段階では思ってもみないことでした。こういう小さな取組みが日本全国にあって、それがつながっていく、ということがこれからの生物多様性を守ることにつながっていけばいいなと思っています」

参加者全員でワークショップ!「生物多様性お国自慢!」

受賞者、参加者、そして審査員や協賛企業の皆様も参加して、会場の全員で行うワークショップです。 ファシリテーターは一般社団法人CEPAジャパンの森良理事です。ワークショップのテーマは「生物多様性お国自慢!」。受賞14団体それぞれの地域について絵を描いてお国自慢をしながら、地域の魅力や恵みをどう活かすか、自然をただ鑑賞するだけではなくて人間の暮らしを豊かにするアイデアを考えて意見交換をする、というものです。早速、受賞団体が赤組と白組の2チームに分かれてワークを始めます。受賞者以外の参加者のみなさんは、ご自身が応援したいグループに入って参加します。

はじまるやいなや、アッと言うまに模造紙が床一面に広がり、ワイワイガヤガヤ会場内が活気づきました。アイデアを書き留めた絵ができあがったところで、輪になって、各グループ発表し合いました。みなさんお国自慢となると力説、力作が多く、ウキウキとお話されるのが印象的です。特徴的なのは地域の宝を紹介しながら、様々なつながりについてお話されること。他の地域とのつながりや、資源の循環、流域、などにふれながら紹介されていました。みんなで見つけた地域の宝。今後の活動のヒントになるかもしれません。

継続は力なり!関係団体の皆様から応援スピーチをいただきました

前田建設工業株式会社執行役員CSR・環境担当
勝又正治執行役員

弊社でも環境を経営の柱のひとつと捉え、社員一丸となって取り組んでいます。本アクション大賞は生物多様性を広めていくことを目的としていること。生物多様性という言葉と内容を5つのアクションという形でわかりやすく広めていること。この2点に共感して協賛をさせていただきました。生物多様性アクション大賞は2年目ですが、広がりを見せており頼もしく思っております。今後に期待しております。

積水化学工業株式会社CSR部環境経営グループ
能勢泰祐様

セキスイハイムは、太陽光発電システムをはじめ、さまざまな環境に貢献するシステムを搭載した住宅です。この協賛は、セキスイハイムにお住まいの多くのご家族のみなさまによって削減されたCO2から得られたクレジットを利用いたしました。みなさまの活動はダイヤモンドです。小さな活動でも磨いていけば大きな輝きを発し、大きな効果が生まれると考えています。ぜひ今後とも活動を継続し、さらに多くの方々に広げていただきたいと思います。

森ビル株式会社環境推進室室長
太田慶太様

日頃は都市部の大規模複合開発を行っておりますが、開発のミッションとして環境、緑を大きなテーマとして捉えております。緑化にも力を入れてきました。今回の発表では地方での取組みも多くあり感心させられる内容ばかり。地方と中央のネットワークなど、これからゆるやかにつながりが生まれていけばと期待しております。今後も地道に活動を継続しながら、たくさんのアイデアを出し合ってがんばってください。

最後に共催の一般財団法人セブン-イレブン記念財団評議員、伊藤順朗様からメッセージをいただきます。

一般財団法人セブン-イレブン記念財団
伊藤順朗評議員

今回120を越える団体からの応募がありました。ここに集まられたみなさんは既に選ばれた方たちだ、ということで心から敬意を表したいと思います。今地球は本当に傷んでいると感じます。この問題にたったひとつの解決策はなくて、色々な対策や草の根的な活動が継続的に行われることが地球の保全につながっていくと感じています。改めて、みなさんでその意義を再認識して活動を広めて行っていただきたいと思います。

2年目を迎えた生物多様性アクション大賞。今回も日本全国から素敵な活動が寄せられ、昨年を上回る合計124件の応募がありました。 2020年には生物多様性の損失が食い止められて、2050年には自然と共生した社会をつくろう、という生物多様性条約愛知目標の実現へ向けて、垣根を越えてみんなが一緒に動き出しだした証のひとつです。

受賞活動を振り返ってみると、地域の宝探しをすることで町おこしと連動した活動や、システマチックに学ぶ仕組みを整えた活動、地域文化の伝承と連動した活動など、他の地域や活動でも取り入れられそうな事例やヒントがたくさんありました。2015年は生物多様性10年の中間年。2020年にむけてより一層、生物多様性を広めて、具体的なアクションにつなげることが大切です。たべよう、ふれよう、つたえよう、まもろう、えらぼう、という暮らしに根ざした5つのアクションに取り組むことで、生物多様性を守り、地球がよみがえることにつながります。最後は、ワクワクする未来を思い描きながら、参加者全員で記念撮影会です。ステージは受賞者の皆さんの晴れやかな笑顔でいっぱいになりました。