生物多様性の主流化を目指す活動として、昨年からスタートした生物多様性アクション大賞。今年は全国から総数124の優れた活動の応募をいただきました。その後「優秀賞」を選定し、さらに「優秀賞」受賞者によるプレゼンテーションを経て「大賞」を11月30日に決定。また、大賞、優秀賞をはじめとした各賞を表彰いたしました。下記より審査委員からの評価ポイントもあわせてご覧ください。後日レポートもUP予定です。
生物多様性の主流化を目指す活動として、昨年からスタートした生物多様性アクション大賞。今年は全国から総数124の優れた活動の応募をいただきました。その後「優秀賞」を選定し、さらに「優秀賞」受賞者によるプレゼンテーションを経て「大賞」を11月30日に決定。また、大賞、優秀賞をはじめとした各賞を表彰いたしました。下記より審査委員からの評価ポイントもあわせてご覧ください。後日レポートもUP予定です。
「アエノコト」
まるやま組(石川県輪島市)
※まもろう部門で優秀賞を受賞
審査委員長(筑波大学 教授吉田正人)からのコメント
日本の文化を大切にする、食べることを通じて生物多様性、自然の恵みに感謝するといった、日本人の忘れかけている大切なことを伝えている点を評価した。
評価のポイント
東日本大震災の大きな被害があった石巻で、海産物や牡鹿半島の鹿肉など地元食材を使って地産地消の食事を提供していることです。審査員の満場一致でたべよう部門の優秀賞に決定しました。町並みを絵巻物のように表現するウェブサイトやSNSの活用など話題性のある情報発信にも力を入れています。この取組みは、石巻で知られていない地元食材を発掘して新しい食べ方を提案したり、築100年の古民家をリノベーションしてレストランとして活用するなど、地域の宝探しをしているような印象を受けました。単にひとつのお店の発展ということではなく、石巻の新しい食文化を開拓するという地域全体の再生を視野に入れた取組みで、町おこし活動と生物多様性の活動が連動しているところも評価されました。
知ろう伝えよう外来生物のこと
石垣市立伊原間中学校(沖縄県石垣市)
評価のポイント
沖縄県八重山地域で導入されて問題が生じている特定外来生物オオヒキガエルについて、子どもたちが手を動かして調べることで外来生物が生態系に与える影響を学ぶプログラムであること。特に石垣島は外来種がたくさん入っている地域でもあるので、それを中学校のプログラムとして取り上げ、中学1年生を対象に過去5年間にわたって継続的に授業が行われた実績は素晴らしい。地域性を反映しながらも子どもたちがゲーム形式で楽しみながら学び、生物多様性保全についての理解を深めているという取組みで、将来性という意味でも大変有意義です。
科学的でシステマティックな事例。他の地域でも真似して広めてほしい活動のひとつです。
これからの生物多様性教育のとてもよいモデルケースになるかもしれません。
「渋川いきものがたり」〜ふるさとのすばらしさを伝えよう〜
渋川いきものがたり作成支援委員会(滋賀県草津市)
評価のポイント
子どもたちが渋川地域にどのような生きものがいるのか調べ、絵図や紙芝居を制作して、自分たちが見つけた地域の宝として生物多様性学習の成果を発表する、という活動が評価されました。渋川小学校全児童で「生きもの学習」に取り組んでいることも将来性を感じる取組みです。また、その学習をサポートする「渋川いきものがたり作成支援委員会」は地域住民や行政、研究機関、子ども代表、教員、保護者、など様々なセクターの人材を巻き込んで組織されていることにも注目しています。地域貢献度も高く、この活動から人と人とのつながりが生まれています。学習の成果物として出来上がったふるさと絵屏風は全校児童553名と教員40名のイラストと見つけた生きもの106種が描かれていて畳4枚分という大きな作品。審査員の中からぜひ見てみたい!という声もあがりました。
評価のポイント
奥能登の農家で人知れず静かに行われてきた祭礼、アエノコト。農家が目に見えない田の神様をお迎えして感謝を捧げ豊穣を祈願するという日本の無形文化遺産やユネスコの無形文化遺産にもなっている農耕儀礼です。生物多様性というと自然保全的な側面に注目されがちですが、それだけではなく、目に見えない田の神様に収穫の感謝することを通じて人間と自然の関係性に想いを馳せたり、自然に対する感謝をもう一度取り戻そうという活動からは、文化的な側面も含めて守り広めて行こうという姿勢が見られて意欲的な取組みが評価されました。また、毎月行われている生きもの調査をしたモニタリングデータを田の神様の依り代として見立てるという現代的で斬新なアイデアもおもしろい。自然と伝統文化が二元的に対立する構造ではなく、融合しているという日本独特の自然観を感じる独創的な活動です。
生きもの元気米
NPO法人河北潟湖沼研究所(石川県河北郡)
評価のポイント
田んぼ一枚ごとにどのような生きものがいるか、しっかり調べてお米に認証をつけたことです。「生きもの元気米」は農薬の空中散布や畦の除草剤を使わずに栽培されたお米のこと。
栽培期間中にはNPO法人河北潟湖沼研究所の研究員が田んぼを訪れて、田んぼ一枚ごとにどのような生きものがいるか調査をしています。田んぼ一枚ごとにお米が袋詰めされているので、どこの農家さんが、どのような肥料や農薬を使って育てたお米か、どんな生きものがいる田んぼで育ったか、はっきりわかります。生きもの調査の結果はホームページに掲載したり、お米パッケージの裏側にラベルで一覧で表示するなど、消費者までその情報が届く仕組みになっています。
このような取組みをしているのはここしかない、というくらい徹底していて、とてもユニークな事例です。
岩手県被災地での「神の森」ドロノキ植樹プロジェクト
臼澤鹿子踊保存会(岩手県大槌町)
評価のポイント
東日本大震災の被災地、岩手県大槌町の「臼澤鹿子踊」は鹿子頭を身につけた鹿子と刀掛けが笛と太鼓に合わせて舞う勇壮で美しい伝統芸能です。400年の歴史を持つ「臼澤鹿子踊」の鹿子頭に用いるカンナガラという獅子の白いたてがみにもした飾りがなびく様が大変美しいのですが、その材料となるドロノキが入手困難な状況。そこでドロノキを植樹して伝統芸能と地域の自然資源を守る活動なのですが、単に生物多様性保全のための植樹ではなく、大きな災害を乗り越えて「臼澤鹿子踊」という伝統芸能も含め未来へ伝えて行こうという地道な活動姿勢を評価しています。地域に根ざした生きものと伝統文化が関連しあっているというケースは全国各地に見受けられる傾向なので、他の地域にも参考となる事例ではないでしょうか。
JP子どもの森づくり運動「東北復興グリーンウェイブ」
NPO法人子どもの森づくり推進ネットワーク(東京都)
評価のポイント
「東北復興グリーンウェイブ」は、東北の幼稚園・保育園の子どもたちが拾った“どんぐり”を全国の幼稚園・保育園に届け、全国の園児たちが苗木に育て、東北に送り返して被災地に植える活動です。全国58園、約3,000名の園児が参加しています。苗木を育てる活動を通して、生物多様性への学びや気づきに加えて、地域を越えた人と人の共生、自然と人の共生の心を育み、東北復興支援にもつながる絶好のプログラムです。苗木の送り返しの様子や植樹会の様子など活動風景がNHKの全国放送や地元テレビ局をはじめとした各種メディアで紹介されたこともありたこともあり大きな実績を残しています。「グリーンウェイブ」や生物多様性への世論の認知の拡大に大きく寄与しているといえます。
みんなで頑張る。棚田の生物多様性の普及啓発活動
特定非営利活動法人大山千枚田保存会(千葉県鴨川市)
評価のポイント
千葉県鴨川市の棚田地帯「大山千枚田」を拠点に、里山の生物調査や自然観察会を実施している「みんなで頑張る。棚田の生物多様性の普及啓発活動」は都市部と中山間地域の活性化に貢献しており、地元農家の生き甲斐にもつながります。棚田を活用した生きものとのふれあいは、農業との結びつきを学べるようになっています。
都市住民、地元農家、専門家の恊働による生物調査、生きもの図鑑の作成、農家インタープリターの育成など、年間を通じて様々な体験活動を行っている点もユニークです。地域の生態系の豊かさを知ることで、参加者だけでなく農家も生物多様性について理解を深める仕組みになっていることが評価ポイントとなりました。
国立公園におけるサクラソウ自生地の保全活動
青森県立名久井農業高等学校 草花班(青森県南部町)
評価のポイント
東日本大震災の津波被害を乗り越えて、青森県八戸市種差海岸のシンボルでもあるサクラソウについて地元の高校生がここまで熱心に調べて発表したということにまず感心しました。新しい発見がある、ということも素晴らしい。学生たちの取組みとして評価したいです。環境省などと連携を取りながら環境調査に取組み、その結果さまざまな発見がありました。サクラソウが海浜植物に埋もれてしまい光が当たらないため種子もよくできず、そのため地下茎によるクローン増殖となっている現状を明らかにしました。長期存続の為には他の遺伝子を受け継いで種子で増えることが必要ですが国立公園内のため規制があります。そこで、専門家と協働して高校生自らが蜂の代わりに受粉を行い成果をあげています。規制の多い国立公園内で行う新しい保全活動として注目しています。
紙芝居、絵本を活用した判りやすい環境教育
海と空の約束プロジェクト(兵庫県明石市)
評価のポイント
自然のつながりについて伝える紙芝居や環境絵本をつくる活動は自費出版から始まり多様なセクターとの恊働から環境教育活動へと発展し大きな広がりをみせています。やれることを何でもやっているという印象。特に教育関連施設や図書館に寄贈したり、航空会社と連携して飛行機の機内で児童図書として配布するなど多くのセクターとの恊働している点やJICAやNPOとの恊働により英語だけでなくアジアの様々な言語に翻訳されて広めることにも注力している点も評価されました。他言語化により国際的な広がりが出ていて波及性も大きい。英語以外に翻訳された、インドネシア語、ベトナム語、中国語、韓国語、クメール語が使われる地域は生物多様性保全という意味でも重要なエリアです。
カシニワ・フェスタ
カシニワ・フェスタ実行委員会(千葉県柏市)
評価のポイント
個人の庭だけではなく雑木林も含めて公開する機会を設けることで、市民が自然と親しみ、楽しみながら生物多様性について考えるきっかけとなる取組みを大規模に、また継続的に行っているところが評価されました。このような活動は全国各地で実施することが可能なので、波及効果にも期待しています。千葉県柏市では、適正な管理をされている緑地を地域共有の財産と位置づけて、その保全、再生、創出のために公的機関がサポートするという独自の仕組み、「カシニワ制度」が運用されています。生物多様性保全を目的のひとつとした「カシニワ制度」は緑が少なくなっている都市部で民地も含めて緑を残していく手法として、モデル的な事例といえるかもしれません。生物多様性地域戦略を実現するために地域住民が応えるかたちでこの活動が生まれている、というところも素晴らしい。
美味しい!楽しい!ためになる!We♥中海
認定NPO法人自然再生センター(島根県松江市)
評価のポイント
昔は中海に限らず日本各地の汽水湖でこのように海藻をとって有機肥料として活用されていましたが、今はそれをやらなくなってしまいました。それを“味わう”という方向にもって行って、小学校の授業などにもプログラムとして組み込みたくさんの人々に感心をもってもらうよう広めているところを評価しています。かつてお年寄りたちが当たり前のように食卓に並べ楽しんでいた中海の海藻をこの活動を通じて再度味わうことで、美味しかったという感覚から中海のおいしい恵みを次世代につなげるには?と考えるきっかけをつくっています。地域性があり、次世代への伝承の取組みの要素も含んでおり大変重要な活動です。
親しみやすく、分かりやすい、生物多様性マンガ等の情報発信
地球環境関西フォーラム(大阪府大阪市)
評価のポイント
森や海の環境認証マークということで、どういう風に商品を選んだらいいか、ということがわかりにくい消費者に対してマンガを使って非常にわかりやすく伝えたことです。また、フォーラムは企業や大学など多様なセクターから組織されていてその点も評価されました。環境マンガはよくありますが、森や海のマークと更に内容を踏み込んで活動しているところにも着目しています。何を選んだらいいかが消費者にわかりやすく伝わって、信頼できるものを実際に選んでもらうということは非常に重要。MSC認証の認知度をあげていくという意味でとても有意義な活動ですし、今後の波及性に期待しています。
グローバル64拠点で取り組む生物多様性保全活動と主流化への貢献
東芝グループ(東京都)
評価のポイント
全世界の東芝グループ64拠点でピオトープをつくるという取組みは生物多様性保全、生態系ネットワークを構築すると共に、ESD(環境教育)につなげるなど、魅力的な活動です。工場敷地を活用した参加型のアクティビティとすることで、従業員家族や地域住民との連携が生まれており、企業ならではの波及力といえます。各拠点ごとに独自の展開もみられ、それぞれの地域ならではの発見や保全のあり方なども生まれていておもしろい。社内教育からもう一歩踏み込んで、地域への展開がみられるところに注目しました。また、生きものを保全するだけではなく、普及にも力を注いでいる点は今後の生物多様性の主流化という意味でも評価したいポイントです。