審査結果
2016年度の生物多様性アクション大賞の審査結果をお知らせします。今年は全国から総数104もの優れた活動の応募をいただきました。10月20日に開催された「第6回生物多様性 全国ミーティング」(主催:国連生物多様性の10年日本委員会、環境省)において5部門の優秀賞を公表し、その後、特別賞、審査委員賞、入賞を発表いたしました。11月19日に開催した受賞式典での優秀賞プレゼンテーションを経て大賞が決定しました。また、今年度は審査の結果、大賞に比肩する活動として特別に未来賞が贈賞されました。下記に受賞結果をお知らせいたします。審査委員からの評価ポイントもあわせてご覧ください。授賞式の開催概要はこちらをご覧ください。
※活動名をクリックすると活動概要のページにリンクします。団体名をクリックすると各団体のサイトにリンクします。
大賞
つたえよう部門
糸島こよみ舎(福岡県糸島市)
評価のポイント
糸島の自然、文化や伝統行事、生きものなどの情報を、日めくりカレンダーにまとめる活動です。地域のお年寄りに取材した風物詩や自然の風景を、暦として記録するアイディアが評価されました。カレンダーを通じて、地域ならではの風物を再発見、共有することで、地域を見つめなおす活動になっています。学術専門家や環境活動家、一次産業の従事者など、ヒアリング先が幅広く、バランスが良い点も高評価となりました。また、カレンダーの土台に糸島の間伐材を使っている点や、毎年違うバージョンを発行したり、オリジナルの七十二候を考案したりしている点も、素晴らしいといえます。他の地域との連携も始まっているとのことなので、この取り組みの日本全国への波及が楽しみです。
未来賞
ふれよう部門
特定非営利活動法人田舎のヒロインズ(熊本県阿蘇郡)
評価のポイント
都会出身の子どもと農村出身の子どもを地域の農家が受け入れ、農作業を通じて子どもたち同士の交流もできる活動です。多様な生態系が形成される農村の中で子どもたちが活動できる点や、ESD(持続可能な開発のための教育)を取り入れ、実践している点が評価されました。子どもたち自身が活動内容を決めるなど、自主性を尊重する内容になっています。農家の強さを次世代の子どもたちに伝えるという、農家の新たな役割を作り出している事も素晴らしく、参加者の中から農家の跡継ぎが生まれる可能性に大いに期待できます。また、東日本大震災を機に着想し、さらに熊本地震を乗り越えて事業を再生させている事は、災害大国である日本で生きるモデルとも言えるでしょう。今後のさらなる活躍に期待しています。
優秀賞
たべよう部門
株式会社森と暮らすどんぐり倶楽部(福井県三方郡)
評価のポイント
地域に自生している木の実に着目し、木の実のシロップを作る活動です。「私たちの林業」というキーワードのもとに、地域に自生している資源を活かし、自然体験やキャンプ・バーベキュー場などを運営するなど、山林で多面的に活動している点も魅力的です。また、幼いころより親しんできた、木の実などの地域の資源を活かして事業を行い、ふるさと納税のお礼の品として行政と連携している点や、作ったものが地域の産業になるという点も評価されました。地域の生物の多様性を伝える存在でありながら、実業家として、地域の活性化に取り組んでいかれることを、楽しみにしています。
まもろう部門
富士山アウトドアミュージアム(山梨県南都留郡)
評価のポイント
富士山麓付近でおこった野生動物のロードキルのデータを集め、可視化することでロードキルを減らす糸口を見つける取り組みです。富士山麓での試験的な活動が実績を結べば、今後は全国展開が期待できます。作成されたデータベースは内容が厚く、事故に遭った動物のアイコンを地図上にマッピングするなど、情報を分かりやすく表示。さらに、事故の状況を検索できるようにして、ロードキルに対する具体的なアクションを起こさせる工夫もなされています。本取り組みの特筆すべき点は、可視化されにくいテーマを、テクノロジーを通じて実用可能なデータにしていることであり、人と動物の共生に関わる問題を現代の技術を使って克服しようとしている点が高く評価されました。今後はロードキル回避の手法検討につなげる、自動運転技術に組み込むなど、さらに進化したサービスとなることを期待しています。
えらぼう部門
三菱ケミカルホールディングスグループ クオドラント・プラスチック・コンポジット・ジャパン株式会社(三重県四日市市)
評価のポイント
東南アジアなどから輸入された合板を使用したコンクリート型枠は、貴重な天然の熱帯材を大量に使い捨てているとの批判が国内外からありました。この取り組みは、その代替となる再利用可能な樹脂製型枠を開発したものです。使い捨ての合板型枠から再利用可能な樹脂製型枠へと移行することで、熱帯林の破壊が緩和されます。こうした問題の解決に貢献しようとの発想から樹脂製型枠の開発に着手した点を評価しました。日本では、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けて建設ラッシュが続いています。東京大会に向けた建材のサプライチェーンの観点でも、地球環境の保全に目を向けた発想を持つことが重要です。この事業が評価されることで、業界全体としての取り組みにつながる重要な一歩となって欲しいと思います。
特別賞
復興支援賞
あじ島冒険楽校(宮城県石巻市)
評価のポイント
人口400人程度に減った網地島を舞台に、島の外から子どもたちを迎えいれ、「あなご抜き」と言われる網地島独特の魚釣りや、竹鉄砲・竹とんぼ作りなど、島に伝わる技術や遊びを体験してもらう活動です。島の人びとが伝承してきた昔の遊びを体験することにより、地元の高齢者と参加した子どもたちの間に密なコミュニケーションが生まれ、良い影響を与え合っている点が、高く評価されました。地域の自然から生まれた文化の記憶を残し、次世代に伝える取り組みは、地域の生物多様性を次世代に残す活動として、他の地域でも重要になっていくでしょう。また、東日本大震災で被災した子どもたちを積極的に受け入れ、海への恐怖心を克服する手助けをしていることや、被災の翌年に再開したメンバーの奮起が人びとに与える勇気には、計り知れないものがあります。
グリーンウェイブ賞
大船渡市立末崎中学校(岩手県大船渡市)
評価のポイント
中学校の「総合的な学習の時間」で、地域の誇りである「三陸ワカメ」を核に、森から海までの生態系のつながりや自然の恵みについて体系的に学ぶ取り組みです。中学1~2年生が、漁業関係者と連携して地場産業のワカメの養殖・販売体験をした上で、栄養分の豊富な水が海へと流れ込む、森・川・海のつながりを考え、流域の視点から森林の働きを学び、植林・下刈り・間伐等を行っている点が特徴的です。また、2003年から林野庁三陸中部森林管理署と協定を締結して中学校の森として「産土の森」を設定し、地域の未来の担う子どもたちが、世代を越えながら継続的に森づくりを取り組んでいることも評価されました。「地域との連携・協働」や「アクティブ・ラーニング」が重視されている次期学習指導要領改訂に向けても、示唆に富んだ取り組みといえます。
セブン-イレブン記念財団賞
群馬県立尾瀬高等学校自然環境科(群馬県沼田市)
評価のポイント
増加したシカの食害で絶滅の危機に瀕する、日光白根山のシラネアオイ群落の保護・復元に、地元の「シラネアオイを守る会」とともに1996年の尾瀬高校自然環境科の設立当初から取り組み、成果を上げています。毎年9月中旬に3年生がシラネアオイの果実を採集し、果実から取り出した種子を1年生が10月中旬に住民と共に播種、2年生が4~5年かけて育成された苗を6月下旬に移植する、在学中の3年間で一連の保護復元活動に携わるカリキュラムが評価されました。また、地元住民が高齢化する中で、片道2時間以上も要する自生地への苗の運搬、標高2,200mを超える自生地の急斜面での移植作業や果実の採集作業、開花状況の調査、さらには登山道の整備や美化清掃、資材の運搬など、活動の大半は若い高校生の力に負う所が大きく、活動の原動力となっています。
審査委員特別賞
小網代の森の生物多様性の回復
特定非営利活動法人小網代野外活動調整会議(神奈川県三浦市)
評価のポイント
神奈川県が所有する「小網代の森」を神奈川県、三浦市、かながわトラストみどり財団と協働して保全活動に当たっています。都市近郊という開発の圧が高い場所で長年にわたって活動し、流域まるごとを手作りで保全する活動を全国に先駆けて始めたという点において、一線を画す存在です。また、民間企業の地域開発計画を、環境保全の方向へと転換した点は他に例を見ない、奇跡とも言える成果です。こうした実績に敬意を表し、本プロジェクトを「審査委員特別賞」としました。2014年より一般に解放されている小網代に、たくさんの人々が訪れて、活動の成果と意義が伝わっていくことを願います。
審査委員賞(団体名50音順)
特定非営利活動法人エコパル化女沼(宮城県大崎市)
評価のポイント
ラムサール条約に登録された化女沼(けじょぬま)で、山菜・野草採りやホタル観察、外来魚撲滅大作戦などの自然体験活動を行ない、子どもたちが自然の中で遊ぶ機会を設けています。本団体は、化女沼の環境調査や環境保全活動を行うために、周辺の4つの集落の代表が2名ずつ集まって設立しており、当初から集落を超えた活動を目指しています。イベントの原則となっている親子参加が、家に戻ってからの親子間コミュニケーションを促し、家庭で自然への理解を深めるきっかけを与えている点が高く評価されました。ラムサール条約に登録された場所のワイズユースの好例として、今後も活躍されることを楽しみにしています。
カエルPROJECT(鹿児島県鹿児島市)
評価のポイント
2013年に活動を開始し、里山の自然の維持に積極的に取り組んでいます。火の河原で生きもの調査を行うほか、2016年より、オリジナルのカエルのキャラクターが南九州の環境や伝統文化を紹介するYouTubeチャンネルも開設しています。イベントの企画やチラシ配り、動画の配信など、活動内容の幅の広さが魅力的です。また、ウェブサイトの制作から、イベントの告知、集客、報告までの一連の作業をしっかりと行うなど、高い完成度を目指して取り組んでいる姿勢が素晴らしいと評価されました。今後は、コミュニケーションの精度を高めて活動をしていけば、よりたくさんの人々に届くと思います。
環境ボランティアサークル亀の子隊(愛知県渥美半島)
評価のポイント
伊勢湾・三河湾に面した渥美半島西の浜の豊かな自然環境を生かして活動を行なっています。参加した子どもたちは、「タッチングプール」で地元の漁師がその日に獲った活魚に触れてその魚を食べ、「塩づくりの会」では、古墳時代に盛んだった塩作りの歴史を学んでから、実際に海水を煮立てて塩を作り、その塩を味わいます。審査では、湾内の生物多様性と地域文化に対する学習と体験があわさった、ユニークな活動内容が評価されました。子どもたちの心に海の恵みへの感謝を培うこの取り組みは、湾に面した地域ならではの活動と言えるでしょう。今後、さらに流域全体に活動が浸透していくことを期待しています。
特定非営利活動法人里山倶楽部(大阪府南河内郡)
評価のポイント
自ら焼いた竹炭を使用してコーヒー豆を焙煎し、環境省の二酸化炭素排出抑制対策事業補助金を活用し、カーボンオフセット寄付つきの商品として販売しています。また、売り上げの一部は、本団体も運営に加わる「チャリティネット森が好き」に寄付され、動植物の保全や、生きものの住処を守る里山保全プログラムの活動費に充てられます。コーヒー豆を購入することで、誰でも気軽に二酸化炭素の削減と里山保全に参加できる点が評価されました。また、間伐材で炭を焼くなど、実際に手を動かして、環境保全に働きかけている点も受賞の後押しとなりました。
サラヤ株式会社(大阪府大阪市)
評価のポイント
RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)のBook & Claim方式(証書方式)により、調達するパーム油(ヤシ油)の生産地を支援する「ヤシノミ洗剤」を生産・販売しています。生産地であるボルネオの生物多様性保全活動を行うNGO「ボルネオ保全トラスト(BCT)」の設立にも関与し、このNGOに売り上げ(メーカー出荷額)の1%を寄付している点と、活動を継続している点にも評価が集まりました。パーム油の生産がボルネオ熱帯雨林の生態系を危機にさらしていることを知った後に、専門の調査員を雇用し、BCTの設立にも関わった、更家社長の熱意はメーカーの姿勢として敬意に値します。今後、より高次の調達方式を目指すなど、さらなる高みへ進展することを大いに期待しています。
せせらぎの郷(滋賀県野洲市)
評価のポイント
「魚を田んぼに取り戻す」という思いを持ち、土地の整備で段差ができてしまった水路と田んぼに魚道を作っています。琵琶湖から泳いでくる魚が田んぼを産卵・繁殖場所とすると、整備以降に減少した魚の数が回復し、琵琶湖が生きものでにぎわうようになります。また、魚道の設置にとどまらず、ブランド米「魚のゆりかご水田米」の生産や、市民を田んぼへ招いた体験会を開催するなど、自ら「生物多様性の伝道師」としての役割を自覚し、国内外に向けて情報の拡散に力を入れている点も評価されました。
特定非営利活動法人田んぼ(宮城県大崎市)
評価のポイント
「地域の未来は地域のこどもたちが創る」という考えのもとに、小学5年生を対象に活動しています。子どもたちは1年を通して水を張った、農薬を使わない「ふゆみずたんぼ」を舞台に田植えから収穫、食べるまで、一通りの米作りを体験します。子どもたちが遊びながら田んぼをかき混ぜる“人間代かき”や農薬を使わない除草などを通して自然農法を学び、生きもの調査によって、田んぼが生物多様性に満ちた場所であることを体感します。審査では、長年の活動を通じて地域の生物多様性に対する関心が高まっている点や、地域と子どもたちのつながりが育まれている点などの実績に注目が集まりました。
特定非営利活動法人都留環境フォーラム(山梨県都留市)
評価のポイント
在来馬による伝統耕作「馬耕」を、50年ぶりに復活させた取り組みです。人の手が入り形成されてきた里山の生態を守るには、やはり、里山を人の生活に溶け込ませる必要があります。里山の生態系を回復させていく循環型農業である馬耕によって、それを実践できているという点において、このプロジェクトは貴重な存在と言えます。また、根気のいる伝統的技術の復活を、文化の流れを汲んだ上で達成できている点も、高く評価されました。全国を馬耕してまわる「馬耕キャラバン」を通して技術や文化を伝えている活動もしており、この先の展開がとても楽しみです。
入賞(団体名50音順)
審査結果
2016年度の生物多様性アクション大賞の審査結果をお知らせします。今年は全国から総数104もの優れた活動の応募をいただきました。10月20日に開催された「第6回生物多様性 全国ミーティング」(主催:国連生物多様性の10年日本委員会、環境省)において5部門の優秀賞を公表し、その後、特別賞、審査委員賞、入賞を発表いたしました。11月19日に開催した受賞式典での優秀賞プレゼンテーションを経て大賞が決定しました。また、今年度は審査の結果、大賞に比肩する活動として特別に未来賞が贈賞されました。下記に受賞結果をお知らせいたします。審査委員からの評価ポイントもあわせてご覧ください。授賞式の開催概要はこちらをご覧ください。
※活動名をクリックすると活動概要のページにリンクします。団体名をクリックすると各団体のサイトにリンクします。
大賞
つたえよう部門
糸島こよみ舎(福岡県糸島市)
評価のポイント
糸島の自然、文化や伝統行事、生きものなどの情報を、日めくりカレンダーにまとめる活動です。地域のお年寄りに取材した風物詩や自然の風景を、暦として記録するアイディアが評価されました。カレンダーを通じて、地域ならではの風物を再発見、共有することで、地域を見つめなおす活動になっています。学術専門家や環境活動家、一次産業の従事者など、ヒアリング先が幅広く、バランスが良い点も高評価となりました。また、カレンダーの土台に糸島の間伐材を使っている点や、毎年違うバージョンを発行したり、オリジナルの七十二候を考案したりしている点も、素晴らしいといえます。他の地域との連携も始まっているとのことなので、この取り組みの日本全国への波及が楽しみです。
未来賞
ふれよう部門
特定非営利活動法人田舎のヒロインズ(熊本県阿蘇郡)
評価のポイント
都会出身の子どもと農村出身の子どもを地域の農家が受け入れ、農作業を通じて子どもたち同士の交流もできる活動です。多様な生態系が形成される農村の中で子どもたちが活動できる点や、ESD(持続可能な開発のための教育)を取り入れ、実践している点が評価されました。子どもたち自身が活動内容を決めるなど、自主性を尊重する内容になっています。農家の強さを次世代の子どもたちに伝えるという、農家の新たな役割を作り出している事も素晴らしく、参加者の中から農家の跡継ぎが生まれる可能性に大いに期待できます。また、東日本大震災を機に着想し、さらに熊本地震を乗り越えて事業を再生させている事は、災害大国である日本で生きるモデルとも言えるでしょう。今後のさらなる活躍に期待しています。
優秀賞
たべよう部門
株式会社森と暮らすどんぐり倶楽部(福井県三方郡)
評価のポイント
地域に自生している木の実に着目し、木の実のシロップを作る活動です。「私たちの林業」というキーワードのもとに、地域に自生している資源を活かし、自然体験やキャンプ・バーベキュー場などを運営するなど、山林で多面的に活動している点も魅力的です。また、幼いころより親しんできた、木の実などの地域の資源を活かして事業を行い、ふるさと納税のお礼の品として行政と連携している点や、作ったものが地域の産業になるという点も評価されました。地域の生物の多様性を伝える存在でありながら、実業家として、地域の活性化に取り組んでいかれることを、楽しみにしています。
まもろう部門
富士山アウトドアミュージアム(山梨県南都留郡)
評価のポイント
富士山麓付近でおこった野生動物のロードキルのデータを集め、可視化することでロードキルを減らす糸口を見つける取り組みです。富士山麓での試験的な活動が実績を結べば、今後は全国展開が期待できます。作成されたデータベースは内容が厚く、事故に遭った動物のアイコンを地図上にマッピングするなど、情報を分かりやすく表示。さらに、事故の状況を検索できるようにして、ロードキルに対する具体的なアクションを起こさせる工夫もなされています。本取り組みの特筆すべき点は、可視化されにくいテーマを、テクノロジーを通じて実用可能なデータにしていることであり、人と動物の共生に関わる問題を現代の技術を使って克服しようとしている点が高く評価されました。今後はロードキル回避の手法検討につなげる、自動運転技術に組み込むなど、さらに進化したサービスとなることを期待しています。
えらぼう部門
三菱ケミカルホールディングスグループ クオドラント・プラスチック・コンポジット・ジャパン株式会社(三重県四日市市)
評価のポイント
東南アジアなどから輸入された合板を使用したコンクリート型枠は、貴重な天然の熱帯材を大量に使い捨てているとの批判が国内外からありました。この取り組みは、その代替となる再利用可能な樹脂製型枠を開発したものです。使い捨ての合板型枠から再利用可能な樹脂製型枠へと移行することで、熱帯林の破壊が緩和されます。こうした問題の解決に貢献しようとの発想から樹脂製型枠の開発に着手した点を評価しました。日本では、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けて建設ラッシュが続いています。東京大会に向けた建材のサプライチェーンの観点でも、地球環境の保全に目を向けた発想を持つことが重要です。この事業が評価されることで、業界全体としての取り組みにつながる重要な一歩となって欲しいと思います。
特別賞
復興支援賞
あじ島冒険楽校(宮城県石巻市)
評価のポイント
人口400人程度に減った網地島を舞台に、島の外から子どもたちを迎えいれ、「あなご抜き」と言われる網地島独特の魚釣りや、竹鉄砲・竹とんぼ作りなど、島に伝わる技術や遊びを体験してもらう活動です。島の人びとが伝承してきた昔の遊びを体験することにより、地元の高齢者と参加した子どもたちの間に密なコミュニケーションが生まれ、良い影響を与え合っている点が、高く評価されました。地域の自然から生まれた文化の記憶を残し、次世代に伝える取り組みは、地域の生物多様性を次世代に残す活動として、他の地域でも重要になっていくでしょう。また、東日本大震災で被災した子どもたちを積極的に受け入れ、海への恐怖心を克服する手助けをしていることや、被災の翌年に再開したメンバーの奮起が人びとに与える勇気には、計り知れないものがあります。
グリーンウェイブ賞
大船渡市立末崎中学校(岩手県大船渡市)
評価のポイント
中学校の「総合的な学習の時間」で、地域の誇りである「三陸ワカメ」を核に、森から海までの生態系のつながりや自然の恵みについて体系的に学ぶ取り組みです。中学1~2年生が、漁業関係者と連携して地場産業のワカメの養殖・販売体験をした上で、栄養分の豊富な水が海へと流れ込む、森・川・海のつながりを考え、流域の視点から森林の働きを学び、植林・下刈り・間伐等を行っている点が特徴的です。また、2003年から林野庁三陸中部森林管理署と協定を締結して中学校の森として「産土の森」を設定し、地域の未来の担う子どもたちが、世代を越えながら継続的に森づくりを取り組んでいることも評価されました。「地域との連携・協働」や「アクティブ・ラーニング」が重視されている次期学習指導要領改訂に向けても、示唆に富んだ取り組みといえます。
セブン-イレブン記念財団賞
群馬県立尾瀬高等学校自然環境科(群馬県沼田市)
評価のポイント
増加したシカの食害で絶滅の危機に瀕する、日光白根山のシラネアオイ群落の保護・復元に、地元の「シラネアオイを守る会」とともに1996年の尾瀬高校自然環境科の設立当初から取り組み、成果を上げています。毎年9月中旬に3年生がシラネアオイの果実を採集し、果実から取り出した種子を1年生が10月中旬に住民と共に播種、2年生が4~5年かけて育成された苗を6月下旬に移植する、在学中の3年間で一連の保護復元活動に携わるカリキュラムが評価されました。また、地元住民が高齢化する中で、片道2時間以上も要する自生地への苗の運搬、標高2,200mを超える自生地の急斜面での移植作業や果実の採集作業、開花状況の調査、さらには登山道の整備や美化清掃、資材の運搬など、活動の大半は若い高校生の力に負う所が大きく、活動の原動力となっています。
審査委員特別賞
小網代の森の生物多様性の回復
特定非営利活動法人小網代野外活動調整会議(神奈川県三浦市)
評価のポイント
神奈川県が所有する「小網代の森」を神奈川県、三浦市、かながわトラストみどり財団と協働して保全活動に当たっています。都市近郊という開発の圧が高い場所で長年にわたって活動し、流域まるごとを手作りで保全する活動を全国に先駆けて始めたという点において、一線を画す存在です。また、民間企業の地域開発計画を、環境保全の方向へと転換した点は他に例を見ない、奇跡とも言える成果です。こうした実績に敬意を表し、本プロジェクトを「審査委員特別賞」としました。2014年より一般に解放されている小網代に、たくさんの人々が訪れて、活動の成果と意義が伝わっていくことを願います。
審査委員賞(団体名50音順)
特定非営利活動法人エコパル化女沼(宮城県大崎市)
評価のポイント
ラムサール条約に登録された化女沼(けじょぬま)で、山菜・野草採りやホタル観察、外来魚撲滅大作戦などの自然体験活動を行ない、子どもたちが自然の中で遊ぶ機会を設けています。本団体は、化女沼の環境調査や環境保全活動を行うために、周辺の4つの集落の代表が2名ずつ集まって設立しており、当初から集落を超えた活動を目指しています。イベントの原則となっている親子参加が、家に戻ってからの親子間コミュニケーションを促し、家庭で自然への理解を深めるきっかけを与えている点が高く評価されました。ラムサール条約に登録された場所のワイズユースの好例として、今後も活躍されることを楽しみにしています。
カエルPROJECT(鹿児島県鹿児島市)
評価のポイント
2013年に活動を開始し、里山の自然の維持に積極的に取り組んでいます。火の河原で生きもの調査を行うほか、2016年より、オリジナルのカエルのキャラクターが南九州の環境や伝統文化を紹介するYouTubeチャンネルも開設しています。イベントの企画やチラシ配り、動画の配信など、活動内容の幅の広さが魅力的です。また、ウェブサイトの制作から、イベントの告知、集客、報告までの一連の作業をしっかりと行うなど、高い完成度を目指して取り組んでいる姿勢が素晴らしいと評価されました。今後は、コミュニケーションの精度を高めて活動をしていけば、よりたくさんの人々に届くと思います。
環境ボランティアサークル亀の子隊(愛知県渥美半島)
評価のポイント
伊勢湾・三河湾に面した渥美半島西の浜の豊かな自然環境を生かして活動を行なっています。参加した子どもたちは、「タッチングプール」で地元の漁師がその日に獲った活魚に触れてその魚を食べ、「塩づくりの会」では、古墳時代に盛んだった塩作りの歴史を学んでから、実際に海水を煮立てて塩を作り、その塩を味わいます。審査では、湾内の生物多様性と地域文化に対する学習と体験があわさった、ユニークな活動内容が評価されました。子どもたちの心に海の恵みへの感謝を培うこの取り組みは、湾に面した地域ならではの活動と言えるでしょう。今後、さらに流域全体に活動が浸透していくことを期待しています。
特定非営利活動法人里山倶楽部(大阪府南河内郡)
評価のポイント
自ら焼いた竹炭を使用してコーヒー豆を焙煎し、環境省の二酸化炭素排出抑制対策事業補助金を活用し、カーボンオフセット寄付つきの商品として販売しています。また、売り上げの一部は、本団体も運営に加わる「チャリティネット森が好き」に寄付され、動植物の保全や、生きものの住処を守る里山保全プログラムの活動費に充てられます。コーヒー豆を購入することで、誰でも気軽に二酸化炭素の削減と里山保全に参加できる点が評価されました。また、間伐材で炭を焼くなど、実際に手を動かして、環境保全に働きかけている点も受賞の後押しとなりました。
サラヤ株式会社(大阪府大阪市)
評価のポイント
RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)のBook & Claim方式(証書方式)により、調達するパーム油(ヤシ油)の生産地を支援する「ヤシノミ洗剤」を生産・販売しています。生産地であるボルネオの生物多様性保全活動を行うNGO「ボルネオ保全トラスト(BCT)」の設立にも関与し、このNGOに売り上げ(メーカー出荷額)の1%を寄付している点と、活動を継続している点にも評価が集まりました。パーム油の生産がボルネオ熱帯雨林の生態系を危機にさらしていることを知った後に、専門の調査員を雇用し、BCTの設立にも関わった、更家社長の熱意はメーカーの姿勢として敬意に値します。今後、より高次の調達方式を目指すなど、さらなる高みへ進展することを大いに期待しています。
せせらぎの郷(滋賀県野洲市)
評価のポイント
「魚を田んぼに取り戻す」という思いを持ち、土地の整備で段差ができてしまった水路と田んぼに魚道を作っています。琵琶湖から泳いでくる魚が田んぼを産卵・繁殖場所とすると、整備以降に減少した魚の数が回復し、琵琶湖が生きものでにぎわうようになります。また、魚道の設置にとどまらず、ブランド米「魚のゆりかご水田米」の生産や、市民を田んぼへ招いた体験会を開催するなど、自ら「生物多様性の伝道師」としての役割を自覚し、国内外に向けて情報の拡散に力を入れている点も評価されました。
特定非営利活動法人田んぼ(宮城県大崎市)
評価のポイント
「地域の未来は地域のこどもたちが創る」という考えのもとに、小学5年生を対象に活動しています。子どもたちは1年を通して水を張った、農薬を使わない「ふゆみずたんぼ」を舞台に田植えから収穫、食べるまで、一通りの米作りを体験します。子どもたちが遊びながら田んぼをかき混ぜる“人間代かき”や農薬を使わない除草などを通して自然農法を学び、生きもの調査によって、田んぼが生物多様性に満ちた場所であることを体感します。審査では、長年の活動を通じて地域の生物多様性に対する関心が高まっている点や、地域と子どもたちのつながりが育まれている点などの実績に注目が集まりました。
特定非営利活動法人都留環境フォーラム(山梨県都留市)
評価のポイント
在来馬による伝統耕作「馬耕」を、50年ぶりに復活させた取り組みです。人の手が入り形成されてきた里山の生態を守るには、やはり、里山を人の生活に溶け込ませる必要があります。里山の生態系を回復させていく循環型農業である馬耕によって、それを実践できているという点において、このプロジェクトは貴重な存在と言えます。また、根気のいる伝統的技術の復活を、文化の流れを汲んだ上で達成できている点も、高く評価されました。全国を馬耕してまわる「馬耕キャラバン」を通して技術や文化を伝えている活動もしており、この先の展開がとても楽しみです。
入賞(団体名50音順)