2015年度の生物多様性アクション大賞の受賞結果です。今年は全国から総数135もの優れた活動の応募をいただき、11月6日に開催された「第5回生物多様性 全国ミーティング」(主催:国連生物多様性の10年日本委員会、環境省)において各賞受賞者を公表しました。その後、12月11日の受賞式典で優秀賞のプレゼンテーションを経て大賞が決定しまた。下記に受賞結果をお知らせいたします。審査委員からの評価ポイントもあわせてご覧ください。授賞式の開催概要はこちらをご覧ください。
※活動名をクリックすると活動概要のページにリンクします。団体名をクリックすると各団体のサイトにリンクします。
大賞
たべよう部門
特定非営利活動法人加茂女(京都府木津川市)
評価のポイント
「竹を食べる」ということで放置竹林をなくそうするユニークな活動です。そもそもゴミ問題から始まり、30年にわたり環境問題に取り組んできたというバックグラウンドから、放置竹林への不法投棄の問題に気づきました。竹を食べることで、放置竹林問題を解決しようとする発想がおもしろい。竹を器にしたり、筍料理にしたり、地域の女性がアイデアを持ち寄って開発に取り組んでいて女性の力を感じます。筍料理のバリエーションも豊富で魅力的。美味しそう、楽しそう、食べてみたいな、と思えるものが並んでいます。ただ単純に食べるということからさらに一歩踏み込んで、竹林を資源として捉え直し、筍食品を町の特産品として町おこしに取り組むなど、地域の課題解決と町おこし活動と生物多様性の活動が連動しているという点で評価が高くなりました。
優秀賞
ふれよう部門
公益財団法人東京動物園協会井の頭自然文化園(東京都武蔵野市)
評価のポイント
園内の一部を環境整備して、そこに自然と集まってくる生きものとのふれあいの場を作るという活動です。動物園というと外国から移入された動物や植物など珍しい生きものを見るという体験をイメージしますが、この活動では身近な武蔵野の自然の中であそびながら生きものを探し捕まえる体験を大切にしています。そのため参加者自身が主体的に生きものと出会うための仕掛けや工夫があり、ふれあいの場をつくっているというのが評価ポイントです。子どもたちがあそびながら生きものとふれあう体験は、楽しみながら学び生物多様性保全についての理解を深めているという点で将来性があり有意義です。また、動物園ならではの活動でプロらしい質の高さがあり、情報発信にも力を入れるなどきめ細かく活動を展開しています。
つたえよう部門
一般社団法人てるはの森の会(宮崎県宮崎市)
評価のポイント
ブナ林などに比べると認知が低かった照葉樹林の大切さを伝えた素晴らしい活動です。地区住民全戸に実施している「人と自然のふれあい調査」は、地域の価値、生活知、思いを掘り起こし、地域の魅力再発見に繋がっています。さらにその調査結果を集約してマップや冊子をつくり、地域戦略に活かすというところまで実現している象徴的な事例と言えます。どう次につなげていくか、より良くしてくか、という視点を盛り込んだ取組みとなっています。「人と自然のふれあい調査」の成果物であるマップを活用して地域の外から来るお客様に対して里山ツアーを提供しているという意味では「伝える」という要素にも広がりが出てきていて今後の活動にも期待が高まります。ぜひ日本全国の地域に広がってほしい事例のひとつです。
まもろう部門
湖南 企業いきもの応援団(滋賀県草津市)
評価のポイント
琵琶湖に流れ込む河川の水質調査と生きもの調査を継続的に行い、地域の自然再生に貢献している活動です。生物多様性の保全に地元の中小企業が連携して取り組んでいる、というところに評価のポイントがあります。企業ネットワークを通じた役割分担により、継続的に調査を行える仕組みができている点にも注目しました。行政や博物館など研究機関と連携をしながら調査結果の検証も行われており、今後その結果が地域の環境政策にどのように活用されるか、これからの展開に期待が高まります。2009年から活動を開始して6年目を迎えるということで、改めてCOP10の成果や波及効果を認識できる活動です。審査員の中からはウェブサイトがあるとなおよかった、という声もありました。
えらぼう部門
三菱地所レジデンス株式会社(東京都千代田区)
評価のポイント
生物多様性保全に繋がるような植栽計画を通じてマンションの社会的な価値を高める活動です。マンションの緑化というのはこれまでにもごく普通に行われてきたことですが、生物多様性保全に配慮した植栽計画を土地の大小に関わらず全物件で実施していて、その大切さをマンション購入者にも伝えている、という点が評価できるポイントです。また、ひとつのマンションや特定のエリアに留まらず企業全体で取り組むことで、地域の緑と繋がりが生まれ、公園や緑地にいた生きものが移動できるようになり街全体にエコロジカルネットワークができる、という意欲的な取組みです。地域への貢献度が高く、都市部の限られた土地でも生物多様性の確保が期待できる素晴らしい事例です。
特別賞
復興支援賞
いわき海洋調べ隊・うみラボ(福島県いわき市)
評価のポイント
福島第一原発沖の海水、海底土、魚を採取して海洋生物調査を市民が主体的に行い、福島の海の現状と多様性を伝える活動です。放射性物質の調査はなかなか一般では難しいという現状がある中で、地域の人たちが船を出して、いわき市の水族館「アクアマリン福島」など専門機関の協力を得ながら市民科学という位置づけで地道に調査を続けているところが評価されました。
また、ブログやSNSを活用して福島の海洋資源の豊かさや資源保護の重要性を発信しています。水族館と連携するイベントでは子どもたちやファミリー層に向けた情報発信にも力を入れています。地域全体の再生を視野に入れながら生物多様性の活動を継続している点が評価されました。
グリーンウェイブ賞
特定非営利活動法人天明水の会(熊本県熊本市)
評価のポイント
生物多様性の保全とともに、生態系サービスの持続的利用に向けて、流域の視点から多様なフィールドで「漁民の森づくり」を進めている事例です。流域内の国有林・町有林・学校林等で、20年以上にわたって森づくりを続けており、その面積は約42haにも至っています。また、漁業関係者が参画した森づくりを核に据えつつも、水をテーマとすることで、山・川・海の流域一体となった多彩な環境保全活動・環境教育にもつなげている点も特徴的です。さらに、教育関係部署との連携により、流域内の幅広い学校や緑の少年団等とも連携し、次代を担う子どもたちの幅広い参画を促進している点も評価されます。このように、森づくりを起点にしつつも、水をテーマにして流域目線で生きものと人々の暮らしをつなぎ、ネットワークを拡げながら生物多様性保全を促進させる取り組みが全国に広がっていくことが期待されます。
セブン-イレブン記念財団賞
青森県立名久井農業高等学校 伝統野菜班(青森県三戸郡南部町)
評価のポイント
絶滅寸前で「すでに栽培されていない」と言われていた南部太ネギの種を探し出し、栽培方法を工夫して地域の伝統野菜を保存している事例です。平成23年は栽培農家1戸でしたが、平成26年には11戸となり、生産量も0.5tから35tに増加しました。南部太ネギの安全生産を図るために栽培農家を対象に定期的な技術交流と意見交換の機会を設けました。また、ネギを初めて栽培する農家への講習会を兼ねることとしました。地域を巻き込んだPRなどを積極的に行った結果、県内外からの引き合いも増えていて、伝統野菜を守りながら地域活性化に貢献しています。地元農業高校の学生が中心となって地域を盛り上げた事例で、若者の力を感じます。将来性や継続性も視野に入れて評価しました。
審査委員賞(順不同)
特定非営利活動法人自然文化誌研究会(東京都日野市)
評価のポイント
国立公園内の山村、山梨県小菅村を拠点に、環境学習の場としてのエコミュージアムづくりを通じて、食と農に関する生物多様性の重要性を伝える事例です。この地域は穀菜食による健康長寿で世界的にも知られていた歴史があり、生物多様性保全と合わせて先人の知恵に学ぶ農耕文化調査研究にも力を入れています。ローカルシードバンクを運営し、雑穀や野菜の在来種保存、栽培試験、見本園の運営も行われています。また、郷土食を継承しながら新しい食品開発にも取り組み、道の駅などで実際に観光客が里の恵みを食べられる仕組みができているなど、地域経済に貢献している点も評価されました。
やまがたヤマネ研究会(山形県山形市)
評価のポイント
地域の自然の科学的な調査活動に基づいて、五感を使って野生動物について学ぶことのできる体験型の活動です。イベント参加やツアーなどを通じて生物多様性保全の意識を高めています。地元のガイド、NPO、大学研究者、行政関係者を講師として迎えるなど、地域を巻き込みながら市民が協力して運営しています。「科学的な視点」と「五感を通じて学ぶ」という2つのポイントを共に大切にしている点も評価されました。ウェブサイトも情報が充実しており、メディア出演などにも積極的で発信力があります。ヤマネを中心にした活動から、地域に生息する様々な野生動物へと対象も広がっており、今後の活動も注目されます。
全国農業協同組合連合会 広報部(東京都千代田区)
評価のポイント
田んぼの生きものにふれながら農業と地域環境の関わりを学ぶと共に、生物多様性保全の大切さを五感で感じる活動です。大人も子どもも熱心に生きものと農業の関係を学ぶことができる「田んぼの生きもの調査」を10年にわたり実施しています。その活動は全国各地に広がり、素晴らしい普及効果があります。田んぼの生きもの調査のマニュアルはウェブサイトに掲載されていますが、とても見つけにくいのが残念です。自然環境や生態系に配慮した農法や農業と生物多様性保全の関わりを再認識するために、生産者自身も「田んぼの生きもの調査」に参加しているところに注目しました。農家の意識改革につながっていて、影響力が大きく、地域への貢献度も高い事例です。
京都府立桂高等学校 TAFS「地球を守る新技術の開発」班(京都府ほか)
評価のポイント
京都府立桂高校の高校生が在来種のノシバを活かした自然再生を提案する活動です。独自に開発した種子繁殖技術で遺伝的多様性のある芝地の復元保全を行い、地域の自然再生に貢献しています。日本有数の天然芝地である青森県種差海岸では、地域固有ノシバ種の発見、活用に取り組み、宮城県では固有ノシバ「金華芝」をブランド化して、地産地消の循環型産業を確立させるなど積極的な活動を展開しています。また、地域間連携による広がりと相乗効果にも注目し、学校や関係機関との連携が実現していて、それぞれが開発した技術を併せた固有ノシバの保護活用が進んでいます。高等学校で大学のゼミのような研究授業を行っている点も注目されました。
富士ゼロックス株式会社(東京都港区)
評価のポイント
生物多様性保全の課題解決に向けて、持続可能な用紙の調達を実現している事例です。持続可能な森林管理がなされた材料を用いるなど、生態系に配慮した操業を行う調達先と取引をしています。調達先企業との間に独自の用紙調達規則を定めると共に、調査票で原材料や企業姿勢について毎年確認しながら国内外を問わずに現地調査を行うなど、持続可能な用紙調達のための仕組みづくりにも力を入れています。企業調達の事例としてすばらしい活動ですが、消費者に気づいてもらうにはさらに工夫が必要です。たとえば、マークがあるとか、認証があるとか、何かしらコミュニケーションを促進する工夫をしてほしい、という声が審査会から挙りました。
気仙沼の魚を学校給食に普及させる会(宮城県気仙沼市)
評価のポイント
水産業を軸とした地域創生の事例です。気仙沼の海産物を学校給食に普及させる活動で、給食向けのメニュー開発や小学生を対象とした食育授業に取り組んでいます。地元の魚食を普及させることで子どもたちに食文化を伝えると共に、郷土愛や食への感謝の気持ちを育みながら基幹産業への理解を促しています。水産業関係者はネットワークが作りづらいという現実がある中で、ひとつのエリアでこのような取組みが実現できていることが素晴らしい。全国のモデルになろうという意気込みを感じます。外部に委ねるのではなく、地域の人が主体となって活動が展開されていて、それを子どもたちに伝えているという点も評価されました。全国に広がってほしい取り組みです。
特定非営利活動法人ういむい未来の里CSO(青森県青森市)
評価のポイント
子どもたちが森の素晴らしさを詩で表現し、森の中で自作の詩を朗読する様子を映像で記録する活動です。観察会では、森のスペシャリストとともに、子どもたちが実際に森を歩き、五感で自然を味わいながら生きものの多様性、自然の循環、いのちの尊さ、を学びます。その学びを通じて感じたことを詩にすることで、子どもらしい瑞々しい感性を呼び起こすことに成功しています。次世代を担う子どもたちに生物多様性の重要性を知識として伝えるだけでなく、生きものたちの声や音に満ちた森のなかで時間を忘れて遊ぶことを通して、自然を守ろうとする気持ちを育むことに力点を置いたユニークな活動です。今後も、子どもたちの精神や身体の成長に刺激を与え続けてほしいと願います。
入賞(団体名50音順)
2015年度の生物多様性アクション大賞の受賞結果です。今年は全国から総数135もの優れた活動の応募をいただき、11月6日に開催された「第5回生物多様性 全国ミーティング」(主催:国連生物多様性の10年日本委員会、環境省)において各賞受賞者を公表しました。その後、12月11日の受賞式典で優秀賞のプレゼンテーションを経て大賞が決定しました。下記に受賞結果をお知らせいたします。審査委員からの評価ポイントもあわせてご覧ください。授賞式の開催概要はこちらをご覧ください。
※活動名をクリックすると活動概要のページにリンクします。団体名をクリックすると各団体のサイトにリンクします。
大賞
たべよう部門
特定非営利活動法人加茂女(京都府木津川市)
評価のポイント
「竹を食べる」ということで放置竹林をなくそうするユニークな活動です。そもそもゴミ問題から始まり、30年にわたり環境問題に取り組んできたというバックグラウンドから、放置竹林への不法投棄の問題に気づきました。竹を食べることで、放置竹林問題を解決しようとする発想がおもしろい。竹を器にしたり、筍料理にしたり、地域の女性がアイデアを持ち寄って開発に取り組んでいて女性の力を感じます。筍料理のバリエーションも豊富で魅力的。美味しそう、楽しそう、食べてみたいな、と思えるものが並んでいます。ただ単純に食べるということからさらに一歩踏み込んで、竹林を資源として捉え直し、筍食品を町の特産品として町おこしに取り組むなど、地域の課題解決と町おこし活動と生物多様性の活動が連動しているという点で評価が高くなりました。
優秀賞
ふれよう部門
公益財団法人東京動物園協会井の頭自然文化園(東京都武蔵野市)
評価のポイント
園内の一部を環境整備して、そこに自然と集まってくる生きものとのふれあいの場を作るという活動です。動物園というと外国から移入された動物や植物など珍しい生きものを見るという体験をイメージしますが、この活動では身近な武蔵野の自然の中であそびながら生きものを探し捕まえる体験を大切にしています。そのため参加者自身が主体的に生きものと出会うための仕掛けや工夫があり、ふれあいの場をつくっているというのが評価ポイントです。子どもたちがあそびながら生きものとふれあう体験は、楽しみながら学び生物多様性保全についての理解を深めているという点で将来性があり有意義です。また、動物園ならではの活動でプロらしい質の高さがあり、情報発信にも力を入れるなどきめ細かく活動を展開しています。
つたえよう部門
一般社団法人てるはの森の会(宮崎県宮崎市)
評価のポイント
ブナ林などに比べると認知が低かった照葉樹林の大切さを伝えた素晴らしい活動です。地区住民全戸に実施している「人と自然のふれあい調査」は、地域の価値、生活知、思いを掘り起こし、地域の魅力再発見に繋がっています。さらにその調査結果を集約してマップや冊子をつくり、地域戦略に活かすというところまで実現している象徴的な事例と言えます。どう次につなげていくか、より良くしてくか、という視点を盛り込んだ取組みとなっています。「人と自然のふれあい調査」の成果物であるマップを活用して地域の外から来るお客様に対して里山ツアーを提供しているという意味では「伝える」という要素にも広がりが出てきていて今後の活動にも期待が高まります。ぜひ日本全国の地域に広がってほしい事例のひとつです。
まもろう部門
湖南 企業いきもの応援団(滋賀県草津市)
評価のポイント
琵琶湖に流れ込む河川の水質調査と生きもの調査を継続的に行い、地域の自然再生に貢献している活動です。生物多様性の保全に地元の中小企業が連携して取り組んでいる、というところに評価のポイントがあります。企業ネットワークを通じた役割分担により、継続的に調査を行える仕組みができている点にも注目しました。行政や博物館など研究機関と連携をしながら調査結果の検証も行われており、今後その結果が地域の環境政策にどのように活用されるか、これからの展開に期待が高まります。2009年から活動を開始して6年目を迎えるということで、改めてCOP10の成果や波及効果を認識できる活動です。審査員の中からはウェブサイトがあるとなおよかった、という声もありました。
えらぼう部門
三菱地所レジデンス株式会社(東京都千代田区)
評価のポイント
生物多様性保全に繋がるような植栽計画を通じてマンションの社会的な価値を高める活動です。マンションの緑化というのはこれまでにもごく普通に行われてきたことですが、生物多様性保全に配慮した植栽計画を土地の大小に関わらず全物件で実施していて、その大切さをマンション購入者にも伝えている、という点が評価できるポイントです。また、ひとつのマンションや特定のエリアに留まらず企業全体で取り組むことで、地域の緑と繋がりが生まれ、公園や緑地にいた生きものが移動できるようになり街全体にエコロジカルネットワークができる、という意欲的な取組みです。地域への貢献度が高く、都市部の限られた土地でも生物多様性の確保が期待できる素晴らしい事例です。
特別賞
復興支援賞
いわき海洋調べ隊・うみラボ(福島県いわき市)
評価のポイント
福島第一原発沖の海水、海底土、魚を採取して海洋生物調査を市民が主体的に行い、福島の海の現状と多様性を伝える活動です。放射性物質の調査はなかなか一般では難しいという現状がある中で、地域の人たちが船を出して、いわき市の水族館「アクアマリン福島」など専門機関の協力を得ながら市民科学という位置づけで地道に調査を続けているところが評価されました。
また、ブログやSNSを活用して福島の海洋資源の豊かさや資源保護の重要性を発信しています。水族館と連携するイベントでは子どもたちやファミリー層に向けた情報発信にも力を入れています。地域全体の再生を視野に入れながら生物多様性の活動を継続している点が評価されました。
グリーンウェイブ賞
特定非営利活動法人天明水の会(熊本県熊本市)
評価のポイント
生物多様性の保全とともに、生態系サービスの持続的利用に向けて、流域の視点から多様なフィールドで「漁民の森づくり」を進めている事例です。流域内の国有林・町有林・学校林等で、20年以上にわたって森づくりを続けており、その面積は約42haにも至っています。また、漁業関係者が参画した森づくりを核に据えつつも、水をテーマとすることで、山・川・海の流域一体となった多彩な環境保全活動・環境教育にもつなげている点も特徴的です。さらに、教育関係部署との連携により、流域内の幅広い学校や緑の少年団等とも連携し、次代を担う子どもたちの幅広い参画を促進している点も評価されます。このように、森づくりを起点にしつつも、水をテーマにして流域目線で生きものと人々の暮らしをつなぎ、ネットワークを拡げながら生物多様性保全を促進させる取り組みが全国に広がっていくことが期待されます。
セブン-イレブン記念財団賞
青森県立名久井農業高等学校 伝統野菜班(青森県三戸郡南部町)
評価のポイント
絶滅寸前で「すでに栽培されていない」と言われていた南部太ネギの種を探し出し、栽培方法を工夫して地域の伝統野菜を保存している事例です。平成23年は栽培農家1戸でしたが、平成26年には11戸となり、生産量も0.5tから35tに増加しました。南部太ネギの安全生産を図るために栽培農家を対象に定期的な技術交流と意見交換の機会を設けました。また、ネギを初めて栽培する農家への講習会を兼ねることとしました。地域を巻き込んだPRなどを積極的に行った結果、県内外からの引き合いも増えていて、伝統野菜を守りながら地域活性化に貢献しています。地元農業高校の学生が中心となって地域を盛り上げた事例で、若者の力を感じます。将来性や継続性も視野に入れて評価しました。
審査委員賞(順不同)
特定非営利活動法人自然文化誌研究会(東京都日野市)
評価のポイント
国立公園内の山村、山梨県小菅村を拠点に、環境学習の場としてのエコミュージアムづくりを通じて、食と農に関する生物多様性の重要性を伝える事例です。この地域は穀菜食による健康長寿で世界的にも知られていた歴史があり、生物多様性保全と合わせて先人の知恵に学ぶ農耕文化調査研究にも力を入れています。ローカルシードバンクを運営し、雑穀や野菜の在来種保存、栽培試験、見本園の運営も行われています。また、郷土食を継承しながら新しい食品開発にも取り組み、道の駅などで実際に観光客が里の恵みを食べられる仕組みができているなど、地域経済に貢献している点も評価されました。
やまがたヤマネ研究会(山形県山形市)
評価のポイント
地域の自然の科学的な調査活動に基づいて、五感を使って野生動物について学ぶことのできる体験型の活動です。イベント参加やツアーなどを通じて生物多様性保全の意識を高めています。地元のガイド、NPO、大学研究者、行政関係者を講師として迎えるなど、地域を巻き込みながら市民が協力して運営しています。「科学的な視点」と「五感を通じて学ぶ」という2つのポイントを共に大切にしている点も評価されました。ウェブサイトも情報が充実しており、メディア出演などにも積極的で発信力があります。ヤマネを中心にした活動から、地域に生息する様々な野生動物へと対象も広がっており、今後の活動も注目されます。
全国農業協同組合連合会 広報部(東京都千代田区)
評価のポイント
田んぼの生きものにふれながら農業と地域環境の関わりを学ぶと共に、生物多様性保全の大切さを五感で感じる活動です。大人も子どもも熱心に生きものと農業の関係を学ぶことができる「田んぼの生きもの調査」を10年にわたり実施しています。その活動は全国各地に広がり、素晴らしい普及効果があります。田んぼの生きもの調査のマニュアルはウェブサイトに掲載されていますが、とても見つけにくいのが残念です。自然環境や生態系に配慮した農法や農業と生物多様性保全の関わりを再認識するために、生産者自身も「田んぼの生きもの調査」に参加しているところに注目しました。農家の意識改革につながっていて、影響力が大きく、地域への貢献度も高い事例です。
京都府立桂高等学校 TAFS「地球を守る新技術の開発」班(京都府ほか)
評価のポイント
京都府立桂高校の高校生が在来種のノシバを活かした自然再生を提案する活動です。独自に開発した種子繁殖技術で遺伝的多様性のある芝地の復元保全を行い、地域の自然再生に貢献しています。日本有数の天然芝地である青森県種差海岸では、地域固有ノシバ種の発見、活用に取り組み、宮城県では固有ノシバ「金華芝」をブランド化して、地産地消の循環型産業を確立させるなど積極的な活動を展開しています。また、地域間連携による広がりと相乗効果にも注目し、学校や関係機関との連携が実現していて、それぞれが開発した技術を併せた固有ノシバの保護活用が進んでいます。高等学校で大学のゼミのような研究授業を行っている点も注目されました。
富士ゼロックス株式会社(東京都港区)
評価のポイント
生物多様性保全の課題解決に向けて、持続可能な用紙の調達を実現している事例です。持続可能な森林管理がなされた材料を用いるなど、生態系に配慮した操業を行う調達先と取引をしています。調達先企業との間に独自の用紙調達規則を定めると共に、調査票で原材料や企業姿勢について毎年確認しながら国内外を問わずに現地調査を行うなど、持続可能な用紙調達のための仕組みづくりにも力を入れています。企業調達の事例としてすばらしい活動ですが、消費者に気づいてもらうにはさらに工夫が必要です。たとえば、マークがあるとか、認証があるとか、何かしらコミュニケーションを促進する工夫をしてほしい、という声が審査会から挙りました。
気仙沼の魚を学校給食に普及させる会(宮城県気仙沼市)
評価のポイント
水産業を軸とした地域創生の事例です。気仙沼の海産物を学校給食に普及させる活動で、給食向けのメニュー開発や小学生を対象とした食育授業に取り組んでいます。地元の魚食を普及させることで子どもたちに食文化を伝えると共に、郷土愛や食への感謝の気持ちを育みながら基幹産業への理解を促しています。水産業関係者はネットワークが作りづらいという現実がある中で、ひとつのエリアでこのような取組みが実現できていることが素晴らしい。全国のモデルになろうという意気込みを感じます。外部に委ねるのではなく、地域の人が主体となって活動が展開されていて、それを子どもたちに伝えているという点も評価されました。全国に広がってほしい取り組みです。
特定非営利活動法人ういむい未来の里CSO(青森県青森市)
評価のポイント
子どもたちが森の素晴らしさを詩で表現し、森の中で自作の詩を朗読する様子を映像で記録する活動です。観察会では、森のスペシャリストとともに、子どもたちが実際に森を歩き、五感で自然を味わいながら生きものの多様性、自然の循環、いのちの尊さ、を学びます。その学びを通じて感じたことを詩にすることで、子どもらしい瑞々しい感性を呼び起こすことに成功しています。次世代を担う子どもたちに生物多様性の重要性を知識として伝えるだけでなく、生きものたちの声や音に満ちた森のなかで時間を忘れて遊ぶことを通して、自然を守ろうとする気持ちを育むことに力点を置いたユニークな活動です。今後も、子どもたちの精神や身体の成長に刺激を与え続けてほしいと願います。
入賞(団体名50音順)