審査結果
2017年度の生物多様性アクション大賞の審査結果です。今年は全国から総数116の優れた活動の応募をいただきました。12月8日の受賞式典で5部門優秀賞の皆さんによるプレゼンテーションを経て環境大臣賞、農林水産大臣賞が決定しました。審査委員からの評価ポイントもあわせてご覧ください。授賞式の開催概要はこちらをご覧ください。
活動名をクリックすると活動概要のページにリンクします。※団体名をクリックすると各団体のサイトにリンクします。
環境大臣賞
まもろう部門
株式会社加藤建設(愛知県海部郡)
評価のポイント
建設工事のイメージを、自然環境の保全・回復に向けたものにするため、受注範囲内で実現可能な方法を、検討・提案・実施しています。現場担当に限らず技術や営業など、多様な立場の社員が異なる視点からアイデアを出し合っていることも特徴です。この取り組みは、本来はつながっていたはずの、自然環境とインフラ・建築の関係を取り戻そうとする活動といえます。エコミーティングを経て工事計画の一部変更や駆除計画の追加などが発生した場合でも、費用面などの制約をクリアして実現させており、地域の建設業者が地域の環境の担い手である、という矜持を感じます。環境保護を含んだ工事計画を提案できる建設業者として、業界を率いる存在になることを期待しています。
農林水産大臣賞
つたえよう部門
北九州・魚部(福岡県北九州市)
評価のポイント
高校の部活動から発展し、全国の自然や生きものに関心のある人が参加して活動を行っているネットワークです。「魚部(ぎょぶ)」という名前のインパクトが、まず関心を引きました。これまでの調査・取材をもとに展覧会「大どじょう展」を2017年春に開催しています。夏に行なった「ヒメドロムシ・ゲンゴロウ展」では12万人を集客した、というダイナミックな動きに驚かされました。発行している雑誌『ぎょぶる』の完成度も非常に高く、『ぎょぶる』を通して、魚にまつわる文化や自然などについて広く、力強く発信をしている点も評価されました。これらのコミュニケーションツールを通じて、魚に関わるのが楽しくてしょうがない、といった思いが伝わってきます。
優秀賞
たべよう部門
石巻市立大原小学校(宮城県石巻市)
評価のポイント
「カキ養殖の父」と呼ばれた宮城新昌氏が研究・開発に取り組んだ、地元にとって歴史のあるカキを生かし、子どもたちによるカキの養殖体験活動を長年続けています。海が森とつながっていることに着目して森林を整備したり、毎年活動を発表する場を設け、子どもたち自らが、収穫したカキを伝統食に調理して地元の方に振る舞ったりするなど、総合的な学びの場になっています。学校と地域を結び、地域との関わりを通じて、子どもたちに復興の担い手としての意識を育みたいという想いにも共感します。東日本大震災を経て、地域との結びつきが、より強固になっていることに勇気づけられます。
ふれよう部門
とくしま生物多様性リーダーチーム(徳島県徳島市)
評価のポイント
勝浦川源流域から河口域までをフィールドに、生物多様性を理解し、行動する人材を育成する講座を行っています。流域を意識した講座であることや、22の市民団体がネットワークを形成し、主体的に運営している点が評価されました。8日間にわたる全15回の講座の内容も充実しており、一定の基準を満たした修了者を、徳島県と連携して「生物多様性リーダー」として認定しています。そのリーダーが次のリーダー育成をサポートする、といった循環する仕組みを構築している点も評価のポイントとなりました。フィールドワークで、体感を重視する一方で、大学研究者など学術を背景とする講師を迎え、科学的な知見も大事にしている点は学びの入り口としても優れており、全国でも展開可能な構成といえるでしょう。
えらぼう部門
特定非営利活動法人つくしん棒(岐阜県郡上市)
評価のポイント
小学1年生の児童、1人ひとりが間伐材から学習机の保護天板を作り、卒業するまでの6年間使用する取り組みです。保護天板「YUMEITA」は、既存の学習机の天板にはめこむだけで簡単に取り付けられます。間伐材には、地元の木材を使用し、子どもたちが直接手を触れることで問題意識を持ってもらう機会となっています。この取り組みは、木育であると同時に、間伐材を使い続ける仕組みづくりになっています。この視野の広さとアイデアが評価のポイントとなりました。子どもたち自身で作り、6年間使用し、卒業の際に自分の成長の足跡として持ち帰る、という一連の流れは、シンプルですが地域の森と子どもたちをつなぐ優れた教育プログラムになっています。サイズもJIS規格に準拠させており、今後、全国に広がっていくことを期待しています。
特別賞
復興支援賞
気仙沼市立大谷中学校(宮城県気仙沼市)
評価のポイント
松枯れ、磯焼けなど地域の自然に起きた異変の原因を調べ、対策を考える学習活動を2004年から続けています。カリキュラムには、地域の生態系の学習や生きもの調査、米の販売も含まれています。森から海までの自然環境や経済・社会の仕組みについて学ぶプログラムは、異変に取り組む中学生1人ひとりを、山火事を消した小さなハチドリの努力の物語に託そうという想いに支えられています。東日本大震災により、それまでの取り組みが壊滅したものの、地域や全国の人々の思いが集まり、活動が支えられて継続しただけでなく、幼小中連携、地域や家庭との連携にまで進展させており、復興を願う地域の方たちの励みにもなっているのではないでしょうか。
グリーンウェイブ賞
特定非営利活動法人三嶺の自然を守る会(徳島県徳島市)
評価のポイント
全国的に深刻な問題になっているシカ食害について、行政(徳島森林管理署)と連携して食害状況の調査や各種被害対策を行い、貴重な植物群落の保護に寄与しているほか、写真展等の広報活動により県民に広く被害の状況をPRするなど、一体的に取り組んでいます。また、オーバーユース状態にある三嶺山の豊かな自然を守るため、さまざまな植生回復を図るための取り組みや盗掘防止対策、登山道の補修、山トイレのマナーの呼びかけや汚物の担ぎ下ろし作業など、地道でしかも幅広い活動を永年にわたって続けています。こうした取り組みは、同じような課題を抱えている他地域のモデルになると期待します。
セブン-イレブン記念財団賞
兵庫県立御影高等学校 環境科学部生物班(兵庫県神戸市)
評価のポイント
日本人が古くから山の幸として賞味してきたキノコに焦点を当て、地元の市民グループ、博物館、植物園と連携して、標本作成や生態分析などを行い、希少種や絶滅危惧種も含まれた貴重な標本作成を実施しています。形状保存できる凍結乾燥処理をしたものにウレタンポリマー樹脂を浸潤させて500種・1000点以上の標本を作製。また独自のキノコ展などを開催し、外部の発表会に参加、キノコの魅力や多様性を積極的に伝え続けてきた点を評価しました。
SDGs賞
渋川小学校・滋賀の郷土料理学習実行委員会(滋賀県草津市)
評価のポイント
郷土料理を継承し、郷土への愛着を深める活動を行っています。2030アジェンダのゴールとなる年に、社会で活躍し始める小学生が主体的に行動する取り組みです。地域の食材を食べることが、地域の環境や文化を継承すること、地域のサステナビリティへの気づきとなっていることに注目しました。これは、SDGsの中でもとりわけ目標15とターゲット4.7を体現する取り組みであり、目標2、11、12にも資すると言えます。地域の人々のパートナーシップ(目標17)によって支えられ、SDGsの主役である次世代が郷土愛を育みながら地域の存在意義を考える、統合的なアプローチとなっていることに共感しました。SDGsのアイコンを通して世界に伝えたい、日本の次世代が取り組む、環境と文化を守っていく活動だといえます。
審査委員賞(団体名50音順)
魚津三太郎倶楽部(富山県魚津市)
評価のポイント
町の生産物を掲載したギフトカタログを販売・管理しています。富山県魚津市を山から海、空を巡る水循環が完結する町ととらえ、各生産物を、その水循環がもたらす恵み、として価値付けしています。水循環という地域の特性を前提とした経済活動を形成している点が、評価のポイントとなりました。魚津市が行う「魚津三太郎塾」修了生の事業を掲載するなど、すでにあるビジネスを採用するのではなく、地域の特性を理解し伝えようとする人のネットワークを大切にしている点に好感が持てます。今後は、地域の環境や暮らし、文化をどのように守り、支援しているのか、仕組みや方法について、もっと具体的にアピールをして欲しいと思います。
特定非営利活動法人大杉谷自然学校(三重県大台町)
評価のポイント
「しゃくり」というアユの伝統漁法を先人の知恵の結晶と捉え、小学生にその伝統を伝えていく活動をしています。地域の伝統が失われていく中、町内の小学校でしゃくり体験の導入やしゃくり大会の開催、漁具の収集・展示などを通じて、次世代を担う子どもたちへ継承していこう、という姿勢が評価されました。日本が誇る文化として、ハワイの学生に体験してもらっている点もおもしろい。また、しゃくりの伝承のほか、宮川には元々生息していなかった「ギギ」を食べて減らす取り組みも実施しています。経年調査の結果に基づき、本来の生態系に影響する種を、駆除するだけでなく食べる、という活動が科学性とエンターテインメント性に富んでいます。
一般社団法人くりはらツーリズムネットワーク(宮城県栗原市)
評価のポイント
農作業や郷土食などの料理教室、林業の体験などのプログラムを、年間100回以上行っています。地域のなかで育まれ、受け継がれてきた暮らしや技に着目し、それを体験するプログラムとして構成されています。ヒト・モノ・コト、という地域資源をフル活用した多彩な活動を展開することで、自然と共生する農山村の文化を後世に継承しようという意気込みが感じられます。数多くの多様なプログラムを実施することで、栗原市外からの参加者を呼び込むなど、交流人口を増やす効果もあり、地域活性化という視点でも優れた活動です。農作業では稲刈りや藍の作業、ものづくりでは陶芸やしめ縄づくりなど、多様な人が関わってこそ実現可能なプログラムが実施できている点が素晴らしいです。
特定非営利活動法人田んぼ(宮城県大崎市)
評価のポイント
田んぼの生きもの調査を、農薬・土・風致の3つ指標、アシナガグモ類・トンボ類・バッタ類……などの9つの機能的指標群、カウンターによる数値の計測・捕虫網によるすくい取り調査……などの4つの方法に分け、農業の持続可能性を自己評価できる仕組みを作りました。複数人による調査や、長期的な計測による効果の検証が可能で、5歳児でも調査・分析可能なほど平易です。また、生きものの9つの機能的指標群は、日本国内で発表された139の論文をもとに作成されています。生態学的、科学的に裏付けのある指標をSDGsの17のゴールと紐付け、生物多様性の視点から農業の持続可能性を計る試みは、地域の農業とグローバルな課題を結ぶ、ひとつの方向性を示したといえます。
みさを大豆研究班(熊本県阿蘇市)
評価のポイント
幻の大豆と言われる「みさを大豆」の復活を目指し、栽培と加工食品づくりを行っています。研究者の協力のもと、大豆に含まれる栄養素を分析。その結果を踏まえ、パンケーキの試作やみそ作り、焼き菓子づくりにも乗り出しました。大豆を復活させるだけでなく活用・継承されていくための先を見通した活動が評価されました。農業高校の生徒自身が学んだことを生かし、研究者や企業、シェフなどにアプローチをした自主性は、今後も大事にして欲しいと思います。震災からの復興、在来種の保全を、若い世代が自ら担っているという事実は、私たちに希望を与えてくれます。
山梨県立吉田高等学校放送部×富士山アウトドアミュージアム(山梨県南都留郡)
評価のポイント
野生生物の交通事故死、ロードキルの撲滅に取り組んできた団体と地域の高校生たちが協働し、ロードキルを周知し、減少させる取り組みを行っています。高校生視点のアイデアを生かし、地域ぐるみでアクションを深めていった点が評価されました。映像作品の制作や通報用名刺カードを作成するにあたり、高校生自ら富士山アウトドアミュージアムの活動現場へおもむき、犠牲となった動物の処理や森の清掃活動、森作りなどを行っています。これらの活動を通して、人と動物の接点をしっかりと捉え、将来ドライバーとなる自分たちの責任を受け止めようとする高校生たちの姿が頼もしく感じられます。解決すべき課題を人に伝えることで自分自身も学んでいく、という学習過程も優れた教育プログラムになっています。
入賞(団体名50音順)
審査結果
2017年度の生物多様性アクション大賞の審査結果です。今年は全国から総数116の優れた活動の応募をいただきました。12月8日の受賞式典で5部門優秀賞の皆さんによるプレゼンテーションを経て環境大臣賞、農林水産大臣賞が決定しました。審査委員からの評価ポイントもあわせてご覧ください。授賞式の開催概要はこちらをご覧ください。
活動名をクリックすると活動概要のページにリンクします。※団体名をクリックすると各団体のサイトにリンクします。
環境大臣賞
まもろう部門
エコミーティング~建設業における環境活動~
株式会社加藤建設(愛知県海部郡)
評価のポイント
建設工事のイメージを、自然環境の保全・回復に向けたものにするため、受注範囲内で実現可能な方法を、検討・提案・実施しています。現場担当に限らず技術や営業など、多様な立場の社員が異なる視点からアイデアを出し合っていることも特徴です。この取り組みは、本来はつながっていたはずの、自然環境とインフラ・建築の関係を取り戻そうとする活動といえます。エコミーティングを経て工事計画の一部変更や駆除計画の追加などが発生した場合でも、費用面などの制約をクリアして実現させており、地域の建設業者が地域の環境の担い手である、という矜持を感じます。環境保護を含んだ工事計画を提案できる建設業者として、業界を率いる存在になることを期待しています。
農林水産大臣賞
つたえよう部門
魚部~人物多様性をもとに、生物多様性を伝える活動
北九州・魚部(福岡県北九州市)
評価のポイント
高校の部活動から発展し、全国の自然や生きものに関心のある人が参加して活動を行っているネットワークです。「魚部(ぎょぶ)」という名前のインパクトが、まず関心を引きました。これまでの調査・取材をもとに展覧会「大どじょう展」を2017年春に開催しています。夏に行なった「ヒメドロムシ・ゲンゴロウ展」では12万人を集客した、というダイナミックな動きに驚かされました。発行している雑誌『ぎょぶる』の完成度も非常に高く、『ぎょぶる』を通して、魚にまつわる文化や自然などについて広く、力強く発信をしている点も評価されました。これらのコミュニケーションツールを通じて、魚に関わるのが楽しくてしょうがない、といった思いが伝わってきます。
優秀賞
たべよう部門
子供たちによるふるさとづくり 「牡蠣養殖体験」
石巻市立大原小学校(宮城県石巻市)
評価のポイント
「カキ養殖の父」と呼ばれた宮城新昌氏が研究・開発に取り組んだ、地元にとって歴史のあるカキを生かし、子どもたちによるカキの養殖体験活動を長年続けています。海が森とつながっていることに着目して森林を整備したり、毎年活動を発表する場を設け、子どもたち自らが、収穫したカキを伝統食に調理して地元の方に振る舞ったりするなど、総合的な学びの場になっています。学校と地域を結び、地域との関わりを通じて、子どもたちに復興の担い手としての意識を育みたいという想いにも共感します。東日本大震災を経て、地域との結びつきが、より強固になっていることに勇気づけられます。
ふれよう部門
勝浦川流域フィールド講座
とくしま生物多様性リーダーチーム(徳島県徳島市)
評価のポイント
勝浦川源流域から河口域までをフィールドに、生物多様性を理解し、行動する人材を育成する講座を行っています。流域を意識した講座であることや、22の市民団体がネットワークを形成し、主体的に運営している点が評価されました。8日間にわたる全15回の講座の内容も充実しており、一定の基準を満たした修了者を、徳島県と連携して「生物多様性リーダー」として認定しています。そのリーダーが次のリーダー育成をサポートする、といった循環する仕組みを構築している点も評価のポイントとなりました。フィールドワークで、体感を重視する一方で、大学研究者など学術を背景とする講師を迎え、科学的な知見も大事にしている点は学びの入り口としても優れており、全国でも展開可能な構成といえるでしょう。
えらぼう部門
YUMEITAプロジェクト
特定非営利活動法人つくしん棒(岐阜県郡上市)
評価のポイント
小学1年生の児童、1人ひとりが間伐材から学習机の保護天板を作り、卒業するまでの6年間使用する取り組みです。保護天板「YUMEITA」は、既存の学習机の天板にはめこむだけで簡単に取り付けられます。間伐材には、地元の木材を使用し、子どもたちが直接手を触れることで問題意識を持ってもらう機会となっています。この取り組みは、木育であると同時に、間伐材を使い続ける仕組みづくりになっています。この視野の広さとアイデアが評価のポイントとなりました。子どもたち自身で作り、6年間使用し、卒業の際に自分の成長の足跡として持ち帰る、という一連の流れは、シンプルですが地域の森と子どもたちをつなぐ優れた教育プログラムになっています。サイズもJIS規格に準拠させており、今後、全国に広がっていくことを期待しています。
特別賞
復興支援賞
大谷ハチドリ計画
気仙沼市立大谷中学校(宮城県気仙沼市)
評価のポイント
松枯れ、磯焼けなど地域の自然に起きた異変の原因を調べ、対策を考える学習活動を2004年から続けています。カリキュラムには、地域の生態系の学習や生きもの調査、米の販売も含まれています。森から海までの自然環境や経済・社会の仕組みについて学ぶプログラムは、異変に取り組む中学生1人ひとりを、山火事を消した小さなハチドリの努力の物語に託そうという想いに支えられています。東日本大震災により、それまでの取り組みが壊滅したものの、地域や全国の人々の思いが集まり、活動が支えられて継続しただけでなく、幼小中連携、地域や家庭との連携にまで進展させており、復興を願う地域の方たちの励みにもなっているのではないでしょうか。
グリーンウェイブ賞
三嶺の豊かな森を守る活動
特定非営利活動法人三嶺の自然を守る会(徳島県徳島市)
評価のポイント
全国的に深刻な問題になっているシカ食害について、行政(徳島森林管理署)と連携して食害状況の調査や各種被害対策を行い、貴重な植物群落の保護に寄与しているほか、写真展等の広報活動により県民に広く被害の状況をPRするなど、一体的に取り組んでいます。また、オーバーユース状態にある三嶺山の豊かな自然を守るため、さまざまな植生回復を図るための取り組みや盗掘防止対策、登山道の補修、山トイレのマナーの呼びかけや汚物の担ぎ下ろし作業など、地道でしかも幅広い活動を永年にわたって続けています。こうした取り組みは、同じような課題を抱えている他地域のモデルになると期待します。
セブン-イレブン記念財団賞
六甲山のキノコの多様性調査
兵庫県立御影高等学校 環境科学部生物班(兵庫県神戸市)
評価のポイント
日本人が古くから山の幸として賞味してきたキノコに焦点を当て、地元の市民グループ、博物館、植物園と連携して、標本作成や生態分析などを行い、希少種や絶滅危惧種も含まれた貴重な標本作成を実施しています。形状保存できる凍結乾燥処理をしたものにウレタンポリマー樹脂を浸潤させて500種・1000点以上の標本を作製。また独自のキノコ展などを開催し、外部の発表会に参加、キノコの魅力や多様性を積極的に伝え続けてきた点を評価しました。
SDGs賞
「食べることで、琵琶湖を守る」滋賀の郷土料理学習
渋川小学校・滋賀の郷土料理学習実行委員会(滋賀県草津市)
評価のポイント
郷土料理を継承し、郷土への愛着を深める活動を行っています。2030アジェンダのゴールとなる年に、社会で活躍し始める小学生が主体的に行動する取り組みです。地域の食材を食べることが、地域の環境や文化を継承すること、地域のサステナビリティへの気づきとなっていることに注目しました。これは、SDGsの中でもとりわけ目標15とターゲット4.7を体現する取り組みであり、目標2、11、12にも資すると言えます。地域の人々のパートナーシップ(目標17)によって支えられ、SDGsの主役である次世代が郷土愛を育みながら地域の存在意義を考える、統合的なアプローチとなっていることに共感しました。SDGsのアイコンを通して世界に伝えたい、日本の次世代が取り組む、環境と文化を守っていく活動だといえます。
審査委員賞(団体名50音順)
おつかいもん魚津
魚津三太郎倶楽部(富山県魚津市)
評価のポイント
町の生産物を掲載したギフトカタログを販売・管理しています。富山県魚津市を山から海、空を巡る水循環が完結する町ととらえ、各生産物を、その水循環がもたらす恵み、として価値付けしています。水循環という地域の特性を前提とした経済活動を形成している点が、評価のポイントとなりました。魚津市が行う「魚津三太郎塾」修了生の事業を掲載するなど、すでにあるビジネスを採用するのではなく、地域の特性を理解し伝えようとする人のネットワークを大切にしている点に好感が持てます。今後は、地域の環境や暮らし、文化をどのように守り、支援しているのか、仕組みや方法について、もっと具体的にアピールをして欲しいと思います。
伝統漁法がつなぐ宮川の未来
特定非営利活動法人大杉谷自然学校(三重県大台町)
評価のポイント
「しゃくり」というアユの伝統漁法を先人の知恵の結晶と捉え、小学生にその伝統を伝えていく活動をしています。地域の伝統が失われていく中、町内の小学校でしゃくり体験の導入やしゃくり大会の開催、漁具の収集・展示などを通じて、次世代を担う子どもたちへ継承していこう、という姿勢が評価されました。日本が誇る文化として、ハワイの学生に体験してもらっている点もおもしろい。また、しゃくりの伝承のほか、宮川には元々生息していなかった「ギギ」を食べて減らす取り組みも実施しています。経年調査の結果に基づき、本来の生態系に影響する種を、駆除するだけでなく食べる、という活動が科学性とエンターテインメント性に富んでいます。
足元の価値を観つける体験プログラム
一般社団法人くりはらツーリズムネットワーク(宮城県栗原市)
評価のポイント
農作業や郷土食などの料理教室、林業の体験などのプログラムを、年間100回以上行っています。地域のなかで育まれ、受け継がれてきた暮らしや技に着目し、それを体験するプログラムとして構成されています。ヒト・モノ・コト、という地域資源をフル活用した多彩な活動を展開することで、自然と共生する農山村の文化を後世に継承しようという意気込みが感じられます。数多くの多様なプログラムを実施することで、栗原市外からの参加者を呼び込むなど、交流人口を増やす効果もあり、地域活性化という視点でも優れた活動です。農作業では稲刈りや藍の作業、ものづくりでは陶芸やしめ縄づくりなど、多様な人が関わってこそ実現可能なプログラムが実施できている点が素晴らしいです。
3・9・4で持続可能な田んぼの評価
特定非営利活動法人田んぼ(宮城県大崎市)
評価のポイント
田んぼの生きもの調査を、農薬・土・風致の3つ指標、アシナガグモ類・トンボ類・バッタ類……などの9つの機能的指標群、カウンターによる数値の計測・捕虫網によるすくい取り調査……などの4つの方法に分け、農業の持続可能性を自己評価できる仕組みを作りました。複数人による調査や、長期的な計測による効果の検証が可能で、5歳児でも調査・分析可能なほど平易です。また、生きものの9つの機能的指標群は、日本国内で発表された139の論文をもとに作成されています。生態学的、科学的に裏付けのある指標をSDGsの17のゴールと紐付け、生物多様性の視点から農業の持続可能性を計る試みは、地域の農業とグローバルな課題を結ぶ、ひとつの方向性を示したといえます。
みさを大豆復活プロジェクト
みさを大豆研究班(熊本県阿蘇市)
評価のポイント
幻の大豆と言われる「みさを大豆」の復活を目指し、栽培と加工食品づくりを行っています。研究者の協力のもと、大豆に含まれる栄養素を分析。その結果を踏まえ、パンケーキの試作やみそ作り、焼き菓子づくりにも乗り出しました。大豆を復活させるだけでなく活用・継承されていくための先を見通した活動が評価されました。農業高校の生徒自身が学んだことを生かし、研究者や企業、シェフなどにアプローチをした自主性は、今後も大事にして欲しいと思います。震災からの復興、在来種の保全を、若い世代が自ら担っているという事実は、私たちに希望を与えてくれます。
富士山麓ロードキル撲滅プロジェクト
山梨県立吉田高等学校放送部×富士山アウトドアミュージアム(山梨県南都留郡)
評価のポイント
野生生物の交通事故死、ロードキルの撲滅に取り組んできた団体と地域の高校生たちが協働し、ロードキルを周知し、減少させる取り組みを行っています。高校生視点のアイデアを生かし、地域ぐるみでアクションを深めていった点が評価されました。映像作品の制作や通報用名刺カードを作成するにあたり、高校生自ら富士山アウトドアミュージアムの活動現場へおもむき、犠牲となった動物の処理や森の清掃活動、森作りなどを行っています。これらの活動を通して、人と動物の接点をしっかりと捉え、将来ドライバーとなる自分たちの責任を受け止めようとする高校生たちの姿が頼もしく感じられます。解決すべき課題を人に伝えることで自分自身も学んでいく、という学習過程も優れた教育プログラムになっています。
入賞(団体名50音順)